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 エイにぃと会わないためにと外に飛び出しても、結局外で鉢合わせたんじゃ意味がない。家も外もダメならば、せめて彼が確実に来そうにない場所に行こう。そんな考えから夏休みの宿題一式を抱えて、私は図書館へ行くことにした。

  街行く人、その若者の多くは与えられた夏休みを満喫するため友だちと遊んだり、またはバイトに打ち込んでいるらしい。その証拠に夏蝉の大合唱、炎天下の中でキャップを被ってうちわを配るお姉さんまでもがきらきら光って見えて、そのどちらにも属すことの出来なかった外れ者(わたし)はもらったそれで暫し暑さを凌ぎ。

 汗が引いたとあらば辿り着いた図書館で、重たい教科書・ノート一式を机上にドンと広げる。

(今日中に半分以上は終わらせよ)

 それまでまともに手をつけていなかった課題の山を前に、うんと頷き手をバキボキと鳴らす。そのけたたましい音に驚いた他人がギョッとした様子で私を見ようが関係ない。
 ふんっと鼻息を噴き出すと横髪を耳にかけて、シャーペンを2回ノックした。








 大々的に(かたど)られた文化祭特有の看板アーケードを潜る。ガヤガヤと人混みで溢れ、例えばピエロだとかバニーガール、警察にメイドとか。色とりどりの仮装をした学生が行き交う中を、私は一人で歩いていた。

 一度エイにぃに連れられて来たことがあるだけに、勝手を何となく理解しているのが唯一の救いだ。目印を頼りに人波を泳いでいると突如視界が開け、そこに立つ二人の学生に目がいった。


「ねーいいじゃん栄介くん」
「いやだからー…」

 外の屋台のテント前で佇むのは、エイにぃと、随分と丈の短いスカートにばっくりと胸元のシャツを開けた女子高生。
 確かエイにぃの学校って公立だしシャツは白の指定だったはずなのに、その女子高生は“文化祭だから無礼講”とでも言いたげにピンクのシャツを身に纏い、明るい髪を巻いていて。更にネックレスや耳には大きな星をぶら下げていて…あれでバランス取ってるのかな。

 後ろで手を組み露骨に猫撫で声を上げるJKは、そっぽを向くエイにぃに明らか相手にされていない。子どもから見てもウザがられているってわかるのに、と呆然としていると。

 不意にエイにぃが私に気がついた。そしてずんずん近寄ってくると、私の手首を鷲掴む。

「凛、お前いいところに。ちょっと来い」
「ぇあっ!?」

「こいつ、彼女」

「!?」

 猫撫でJKの前に来るや否や、私の片手を高く上げて。にこりと微笑むエイにぃに私たち以外の周りもギョッとしたのが見て取れた。
 訳がわからず脂汗を噴き出す私に、猫撫では目を丸くしてじっと私を上から下まで見たのち、ははっと乾いた笑い声をあげる。