さよなら虎馬、ハートブレイク

 

「あの、構わないんだけどさオズちゃん? さっきからオズちゃんオンステージになってるからそろそろ俺にも歌わせてくれる」

「え〜あと23曲歌いたいのあるのに」
「何曲歌うの!? ロックばっかり凄くない一旦落ち着こう! 一旦インターバル挟も」

 はい休憩休憩、と追いやられ口を尖らせたまま渋々ソファに腰を下ろす。ついでにジンジャエールのストローに口を付けると自分では気付かなかったけれど余程喉が渇いていたらしい、満タンのドリンクが一気に底を尽きた。


「入れてくるよ」

「え、ありがとうございます。…智也先輩は歌わないんですか?」
「そいつ全然ダメだよ、膝でリズム取ってやんないと」

 いやー初めて聞いたときは傑作だったあの音感のなさと外しっぷり。モニター動作をしながらぷぷっと口に手を添える藤堂先輩に、ぶちり、と何かが切れる音がしたのは智也先輩を見るに気のせいではなさそうだ。

「藤堂のもジュース入れてきてあげよっか、コーンポタージュコーラはちみつミルク入り」
「嘘だよ親友の幼気(いたいけ)なジョークじゃないですか」








「カラオケ、結構来るの?」

 これがガス抜きと呼ぶかはさて置いて、確かに大声を出すのはストレス発散に値する、一理あるなんて思い始めていた時だった。ドリンクを持って来てくれた智也先輩に、私はぺこりと頭を下げる。

「いや全然。てかほとんど来たことないです。だからこそあの熱唱」
「なるほどね」
「あ、でも小学生の頃はたまに来てました。従兄弟(いとこ)が歌うのを聞きたくて…」

 そこまで言って、ハッとする。奥底に沈めたものを、自分から掘り出した。自分自身を語るには、あのひとを避けては通れない。それくらい私の中で彼の存在は大きくて、私の一部にもなっていた。
 突然硬直し青ざめる私、その異変は余りにも露骨だったようで。智也先輩はさりげなく一度藤堂先輩が歌っている様子に目をくれ、静かに顔を傾ける。

「小津さん、何があったの?」

「………神奈川に住んでる、従兄弟が、帰省してて」


 重たい、重たい口だった。やっとこじ開けて絞り出した言葉に、歌っていた藤堂先輩の声が一瞬、止まる。違和感が無くて、静かに聞き入ってしまう。エイにぃとは違う形で上手いそんな彼の声は、聴衆の私と智也先輩に応えるように、少ししてからまた思い出したように紡がれる。

「喧嘩した、とか」
「そんな感じ」
「そっか。早く仲直り出来るといいね」
「です、ね」

 優しい声に、曖昧にしか返せない自分が歯痒い。そうこうしている間にあっという間に制限時間がやって来て、私は歌いたい曲3曲を、中でもラストはとびっきりのハードロックを歌って、久しぶりのカラオケを満喫した。