さよなら虎馬、ハートブレイク

 


 なんで、なんで、なんで、

 いま、ここに、エイにぃがいるの。


 頭ではわかってる。理屈も理由もわかってる。でも何で、何で、何で何で。どくり、どくりと高鳴る鼓動が熱く、体の中心で己を主張せんとばかりにズキンズキンと跳ねている。
 この心臓。一思いに引き抜いて息の根を止められたらどれだけ楽になれるだろう。生きたまま思い切り。痛みで死ぬ前に意識も飛ぶのかな。感情が衝突しあって何が何だかわからない。いっそここから消えてなくなりたい。

「………っ…」

 耳を塞いで、目を閉じて。私はその場にしばらく蹲っていた。


 ☁︎


「やだあんた、降りてこないと思ったらあのまま寝たでしょ妖怪みたいになってるじゃない!」

 結局そのまま寝こけてしまったらしく、蝉の大合唱で眼が覚めた。浴衣のまま蛹のように蹲って寝たなんてお母さんに知れたらただでは済まないだろうからと、せめて服は脱いだけれど。時既に遅しだったらしい。
 いつもしない化粧、それを落とさなかったのがただならぬ証拠。

 崩れたメイク、バキバキの体。負のオーラをまとったまま、目だけで辺りをぐるりと見渡す。


「………エイにぃは」

「いないわよ。夜あの後すぐに帰ったし、今日は地元の子達と会うんじゃないかしら」
「…エイにぃ、何日休みなの」
「4日、いや5日って言ってたかな…そんなに気になるなら本人に直接聞いてみればいいじゃない」

 それが出来たら苦労しない、なんて言ったらお母さんはどんな顔をするんだろう。

「どこ行くの?」
「シャワーする」

 言うなりお風呂場の戸をピシャリと締め切った。服を全部脱ぎ捨てて、シャワーの蛇口をひねる。頭から水を被り、目を閉じた。この水が、体にまとわりついたこのモヤモヤごと全部洗い流してくれればいいのに。見えない傷だから一見わからず、他人にも白い目を向けられる。
 小窓から射し込む朝の光、蝉の声は一生の夏を謳歌しているのに。私の心は裏腹に、雨。







(…どこへ行こう)


 夏休みなんて、クーラーの効いた部屋で涼んでいる方がよっぽど有意義だ。用事もなければわざわざ外に出ることなんてない。焼けるし。暑いし。汗かくし。


 それでもあの家の斜め向かいにエイにぃがいると思ったら、いつこっちに来るかわからないと思ったら。想像するだけで落ち着かず、気がついたら適当な服を着て外に飛び出していた。


 昨日先輩と待ち合わせした噴水広場には麦わら帽子を被った小さな子どもと、その親らしい人が水を浴びてはしゃぎ回っている。木陰のベンチに腰掛けた私は、ぶらりとぶら下げた手に握られたスマホ、それを無意識にタップしていた。


 プップップ、の音に続きガヤガヤと音が聞こえる。人混みの中にいるのかな。ちょっと電話、と言う声に続き、その電話の主が現れる。