目を(みは)り硬直する私とは裏腹に、一瞥をくれたっきり切れ長の目をさも興味がなさげに逸らしたエイにぃは、相変わらずダイニングテーブルの椅子に腰掛けて、悠々と紫煙を(くゆ)らせている。

 一方で私は頭が追いつかず目が逸らせないだけに、入ってくる情報量は凄かった。


 学生時代と比べてやや伸びた髪は染めているのか、焦げ茶色をしていて電気の下にいるのに随分暗く見える。地毛が元より明るい彼は、学生時代教師にこっ酷く指導された前例が何度もあると聞いた。何なら目の当たりにしたことだってある。例に並び会社の規則か何かできつくドヤされたのかもしれない。
 でもそれ以外に変わりは見つけられなかった。痩けた頬も長い指も、密度が薄い割に長い睫毛も、病的に白い肌も薄い唇も。

 あの日と、何も変わらない。



 普段気にも留めないのに、突如シャラ、と鳴った(すだれ)の音に大袈裟なくらい体が跳ねた。音は台所から姿を現した母親の仕業だ。お母さんはエイにぃを一目見るなりギョッとして腰に手を当てる。

「ぁあっ! ちょっと栄介(えいすけ)くんうちは禁煙! 煙草吸うなら外って言ったでしょ壁に色が付いちゃうじゃない!」

「神経質すぎんだよ換気扇の近くだから大丈夫だって」
「ダメよ消してすぐ消してーっ! もしくはさっさと出て行ってー!」


 気怠げに渋るエイにぃの背中をグイグイと押すお母さん、それを棒立ちのまま見ているとそこでようやく、お母さんに気付かれた。

「あら凛花帰ってたの? ただいまくらい言いなさい。あ、栄介くんねー、夏休みだから帰ってきたんだって、ちょっと早いお盆休み」
「…そうなんだ」
「なぁに? やけにしおらしいじゃない。昔は事あるごとにエイにぃエイにぃって栄介くんの後ろ付いて回ってたのに」
「やめてよお母さん!」

「あっそういえば浴衣デートどうだった!?」

 10秒ごとにテンション変えるのやめてほしい。

 こっちの事情などお構い無しにエイにぃから私に標的を切り替えたお母さんは、即座に私の腕に絡み付くとむふふ、と目を月形にして頰を赤らめる。

「お母さんが着付けしてコーディネートしたんだもん! 藤堂くん褒めてくれた!?」
「ん、ぅん」
「ちゅーした!? ちゅーは!?」
「お母さんっ!!」

 質問攻めにあう最中見るからに、流し台の前に立ったエイにぃがこっちを向くことはまるでない。お母さんに言われた通り煙草の火を消したエイにぃは、曖昧な返事をする私に目もくれずぱたん、とリビングから出て行った。

「で、どうだったの凛花」

 この期に及んでまだ聞くか。

 ぎっと隣を睨みつける私に、お母さんはあくまで話を聞きたそうに目を瞬いて、小首を傾げている。