照り付ける太陽の下、俯いてフラフラと歩いてくる一人の女子高生。半袖のセーラー服から覗く透き通った白い肌、それに反するように、太陽光に当てられても何色にも揺るがない漆黒のショートボブ。

 彼女はベンチに座る智也、そして立ったまま目を見張る藤堂の前まで赴くと、手にした1枚の紙切れをゆらり、二人に掲げ、顔を上げる。それはそれは、


—————————目一杯の満面の笑みで。


「100点!!」

「お———!でかしたオズちゃん!!」
「ふふん、まぁ私がちょっと本気出せばこんなもんですよ」
「因数分解の応用で頭抱えてた奴がなんか言ってる」

「うっさいなあ!」


 俄かにぎゃあぎゃあ騒ぎ出す私たちに、その間で耳に小指を突き立て涼しい顔で読書に戻る智也先輩。
 夏休みに入る前に一悶着はあったものの。こうして、一度は危ぶまれた私の進級問題は程なくして幕を閉じることになった。








 ☁︎


「いくか、ふたりで。夏祭り」


 高校生活始まって以来めまぐるしく、あっという間に過ぎ去って行った一学期。その締め括りと言っては何だけれど。あの日、追試験前に勉強を教えてくれた藤堂先輩の一言は、ここ最近。体が、心が、どうにも頭と伴わない私に、それはそれは結構な衝撃を与えた。


「…追試験受かったら」

「えっ」
「ご褒美にー。俺が全部奢ってやるよ」
「ほんと!?」

 一瞬子どもみたいに目を輝かせて食いついてしまって、はっとしてそっぽを向く。でもそんなのもう遅いわけで、ふは、と息を抜いて笑われた。

「じゃ、約束な。ぜってー受かれよ」
「い、言われなくてもやるし」
「はいはいツンデレツンデr」

 でし、と膝の裏を蹴って膝カックンみたいになった先輩におい! って吠えられたけど、まぁ、要するにこんな感じで、だからつまりは、








 夏祭りにいくことになった。


「お母さん、浴衣ってどこに仕舞ってあったっけ」

 夏休みに入ると、当たり前だけど毎日のように顔を合わせていた先輩とは会わなくなる。最後に会ったのは終業式の日、追試験が終わって騒いだときっきりだ。あれから十日。別に楽しみにしていたわけではない。いやお祭りは楽しみだけれども。

 いよいよ8月頭、先輩と約束した夏祭りの当日。そう切り出した私に、リビングで寛いでいた母は私の部屋を覗き込む。