《えー、一学期を振り返ってみて、皆さん有意義な学生生活を送ることが出来たでしょうか。

 期末考査も終わり、これから高校生活初めての夏休みを迎える1年生、高校生活にも慣れ、順風満帆な日々を送る2年生、そして受験を控え勉学に奮闘する、3年生。

 夏休みを迎える姿勢は人それぞれ様々だとは思います。その中で、生徒一人一人が我が翔青高校の看板を背負っていることを自覚し、正しい行いを———》



 茹だるような暑さでも成される校長講話の長さは、全国共通なのだろうか。

 くれぐれもハメを外し過ぎないよう、といった校長の話に加え、生活指導担当の教頭から染髪禁止やバイト活動に関する注意事項など。それらの二度押し三度押しがあってから、蒸し風呂状態の体育館で、終業式は滞りなく、終わった。




「えー、まぁ1年生で初めての夏休みだからってハメ外し過ぎないように。あとの注意に関しては式で耳にタコが出来るほど聞いたからわかるだろう、それぞれ自覚を持って行動するようにな

 追試の者は昼食後このクラスでやるから帰らず最後の悪足掻きしとけよー」

 通知簿の返却があって、追試該当者に対する担任の前置きもさらりと組み込まれていて。その際目で念を押す担任の訴えも、先輩に教えてもらったことを忘れないように頭の中を数式で埋め尽くしていた私には届かず仕舞いだった。

 泣いても笑っても追試は一度きり。この追試で転んだら進級も危ぶまれる、そんな一世一代の舞台に私は今、立っている。入試の時ばりに脈打つ鼓動を抑え、ぎゅっと固く目を閉じる。


「制限時間は通常の試験と同じ50分。

 では——————、始め」


 担当講師の合図があってから、私は思いっきり答案用紙を裏返した。











「ちょっとは落ち着いたら」

 中庭、最早お決まりのベンチにて。木陰側に座って文庫本を開いていた智也(ともや)は、さっきから腕を組んだまま隣で立ったり座ったりを繰り返している藤堂(とうどう)に呆れた様子で物申す。

「俺はいつでも落ち着いてるよ」
「…にしては目に映る字がブレてるんだけど」

 やめてくれない貧乏ゆすり、と目を擦る智也そっちのけで、藤堂は手術室の前で妻のお産を見守る夫のようにそわそわしっぱなしだ。

「お前が教えたんだったら大丈夫でしょ。元々小津(おづ)さんそんな勉強出来ない方でもないんだろ」
「数学に関しては割とパンチ効いてたんだよ」

「それはおれも見たけどさ…あ、来た」