「えー…? エジソン」

「そういうんじゃない」
「おこられた」
「真剣に、あるでしょー。頭いいんだから、ちくしょー」
「何だよそのノリ。酔ってんの?」
「脳みそ疲れたんですーだ。ないわけ? お医者さーんとか。弁護士ー、とか、もっとこう現実的な夢!」
「…いや特にないな」

「なによそれ」


 本当に将来とか見据えてないのかこの男。仮にも3年生で、受験生。何かしら目標があって、パイロットになってCAさんにハーレムされたいとか言いかねないと思ったのに。それはそれで言われたらあんただけ墜落しろと思うけどね。

 呆れ返る私に、先輩は唸り続けた末にじゃあ、と続ける。





「総理大臣」


「…」

「え、だめ?」
「…………いや…昔同じようなこと言ってたバカがいたなって」

「バカっつった今、バカっつった?」


 一気に立ち込めた胸騒ぎを悟られてはいないのに、ねえねえねえ、って団扇(うちわ)で文字通り煽ってくる先輩のうざさったらない。割と露骨に嫌がってるつもりなのにそんな私がこの男には見えていないのだろうか。


「あーもううっざい! てか! 待ち合わせのときから思ってましたけど何なんですかその団扇」

「あ、これな。何か近々夏祭りがあるとかでその宣伝みたいよ。朝オズちゃんのこと待ってる時に貰ったんだ。花火とか屋台とかあるんだと」

「花火…屋台」


 聞くだけで胸が踊る感覚は子どもの頃から変わらない。見てくればかり気取っていても、性分が求めるそれは真っ向から否定出来ないのが実情。無意識に瞳を爛々とさせる私に、団扇を見ていた先輩はやがてさらりと視線を向ける。


「…行きたいの?」

「え。いや別に…一緒に行く友だちいないし」
「———…じゃあ、」

「凛花?」