バイトして、金貯めてギター買おう。

 わかりやすいくらい素直なエイにぃはその言葉どおり高2の夏の終わりからスロースタートを切り、無事購入したギターを私に見せびらかしてすげえだろって笑った。

 アホみたいだったけど、3年になって舞台で歌うエイにぃは私には眩し過ぎて見えないくらいだったんだから仕方ない。


 ☁︎


「総理大臣」

 それから三年が過ぎて、私が中学に上がった頃。ショートだった髪は背中まで伸びて、ストレートの髪がホラー映画に出てくる幽霊みたいだ、とエイにぃに言われてから2つ縛りにするようになった。と言うかそもそも中学校の規則で肩につく髪は結ばなければならなかったんだけど。

 エイにぃは知らない。このときの私の髪が、宣言通り女にモテまくった末結ばれた、エイにぃの彼女に似せて伸ばした髪だったこと。エイにぃは知らない。その頃、昔と違って私が彼に違う想いを抱いていたこと。


「なに?」

「将来の夢。っつったらキレられた」

「たりまえじゃん」

「頭かてー」


 高校の時に組んだバンド仲間と地元の大学に進学したエイにぃは、そのままバンド活動を続け物の見事に垢抜けていった。バンドってもっとこう、野暮ったい人たちの類いを想像していた私にとって、あからさまに脱線していったエイにぃは、髪を金髪に染めて、酒を飲んで、それから煙草を吸い出した。

 似合ってないな、と思った。もともと肉付きのないエイにぃが煙草を吸って痩けるのも嫌だったし、髪も元の色のが好きだった。でもその程度じゃ嫌いになる正当な理由にならないし、その“嫌”より“好き”が勝ってた。だから中学に上がって繰り広げられる真新しい毎日を、わざわざエイにぃに伝えになんて口実まででっち上げて、私はエイにぃのそばをまとわり付いていたんだろう。


「てかなんで急にそんな話?」

「必要なんだよ。大三にもなるとな、うるせーわけ。俺の周りは未来予想図描きまくりの現実主義者どもばかりで困る」

 短くなった煙草を灰皿に押し付けて、エイにぃの細い骨張った指が新たな煙草を口に咥える。ライターで火を点ける仕草、ありきたりかもしれないけれど男のひとのこの仕草、ほんと反則だと思う。似合わない金髪で隠れた目元が、伏せた長い睫毛が、エイにぃを見つめていた私に気が付く前にベッドによじ登って窓を開ける。