「オズちゃんみーっけ」
期末試験が終わり、試験前に停止していた部活は今日から再開、明日からは短縮授業になるらしい。この所。上の空だったし試験も散々だったから開放感などあってないようなものだ。
中庭のベンチは木の陰になって涼しくて、そこへやって来た藤堂先輩はゆらり、目だけを動かした私を見ると、にっと白い歯を見せた。
「サイダーと緑茶どっちが良い?」
「…緑茶」
「まぁそう言うと思ったよね」
木陰側に座る私にスッと緑茶パックを差し出す先輩。ペットボトルのサイダーと違って面積の小さい紙パックは手が触れるリスクをかなり高めに孕んでる。それでも静かに受け取る私を見るなり、先輩は満足そうに笑って隣に腰掛けた。
たったこれっぽっちのことだけで、この男は自分の置かれてる状況そっちのけでバカみたいに笑うんだ。
「ふふん。俺、オズちゃんのはじめての男」
「…その表現語弊があるのでやめて下さい」
くつくつと笑う先輩の危機管理能力はどうなってるんだろう。私のせいで自分だって被害受けてるはずなのに、何でそんな平気で居られるの。
なんでそんな、笑ってられるの。
「はー、うま。やーっぱ外で飲む夏のサイダーは一味違…ってなんで泣く!?!」
「ぐっ…ぐやじいですっ」
「え、芸人?」
いたよね確か、とつっこまれてもうぐ、えぐ、と溢れる涙が止まらない。
「先輩ぜんぶわがっ、でるぐせになんで知らないふりするんですかっ」
「………あー…うん、昨今の根も歯もない噂案件ね」
「犯人大体想像ついてますよね、」
「けど証拠がないだろ。根拠もないのに詰め寄ったらだめだ、負の連鎖になる」
「だからってなんでこっちが泣き寝入りしなきゃいけないんですか、」
「別にいいよ俺は気にしないし」
「よくない!!」
「うぉうすげー剣幕」
びっくりー、って目を丸くして剽悍な態度取ってるけど。だって絶対思うことはあるはずなのに。先輩だって嫌だなって思ってるはずなのに。
「私のことはなんて言われても別にいい、でもそれじゃ先輩が悪く言われる」
「…」
「それがすごく悔しいんです」
ひく、ひく、と泣きじゃくっていたら隣にいた先輩が私と向かい合うようにしゃがんだ。膝をついて、顔を傾けて私のことを覗き込む。
「オズちゃんあのな。オズちゃんが思ってるその気持ち、俺も一緒なんだよ」
「…」
「オズちゃんが自分はどう思われてもいいけど俺を優先してるみたいに、俺も、俺はどう思われても気にしないよ。代わりにオズちゃんに笑っててほしい」



