人を傷つけるってことは、その手で自分を傷つけるってことだ。
誰かを傷つけた経験があるんならそれもなんとなくわかるんじゃん、と悠々と伸びをする藤堂に、塩見は目を見開いてから、力無く笑った。
「…ますますわからなくなりました、先輩のこと」
「そおかぁ? 複雑要素皆無じゃん意識高い系ならぬ敷居低い系だよ」
「考えてないようで考えてる、見てないようで凄い見てる」
「なんか後者の変態みたいだから言い方変えてくれる」
「…敵わない訳ですよね。そりゃ、凛花ちゃんが…心許すのも、無理なくて」
座ったまま合いの手を入れる藤堂の向かいで苦笑いを浮かべていた塩見が、突如言葉を詰まらせる。それを察した藤堂もまた、少し目を細めて振り向いた。
「………強くなるって口ばっかりで…」
「…」
「結局…っ見てくれや上っ面だけ塗り固めて、何1つ変われてない…一番大切にしたい子にだって、未だに守られてばかりいる…っ」
逸らした顔、その瞳から小さな光が落下する。堪えても、もうだめだった。情けなくて嫌になる。
だからせめて上を向いて、せめてかっこ悪い姿は、
一番見られたくない人間に晒してしまおう。
「僕は彼女を、僕自身が変わる口実にしたかっただけだ」
惜しげも無く嗚咽をこぼし崩折れる塩見の背に、藤堂の手が触れる。それから、やがてぽんぽんと子どもをあやすように頭を撫でた。
「誰だって思う、そんなのは。お前だけじゃない。みんな変わりたくて変われなくて、それでも必死にもがいてんの」
「落ち着いたかい」
結局泣き噦る後輩放置で昼飯に在り付くなど出来るはずもなく、購買で売れ残ったあんぱんを貪る形になった。しかも体育館裏って今ならいじめられっ子の気持ちに全国で一番寄り添えてる気がする…なんて牛乳パック片手にぼんやり思考する藤堂に、彼がついでに買ってきた“骨が作れる元気なドリンク(プレーン味)”を持っていた塩見はやっと顔を上げる。
一頻り泣いたお陰だろうか、本音を明かした彼の顔はどこか晴れやかで、あるのは赤くなった目の周りだけだ。
「にしても気がかりが。なんで突然オズちゃんに抱き着いたりした? いや衝動ってのはわかるよでも君がそれを抑えらんないような玉か」
「…いや…だって彼女は先輩にフラれて傷ついてたし、先輩は先輩で常葉さんに気があるって知って」
「ちょちょちょ、ちょっと待て」