(レア写真ゲェッツ…!!!)


 後で智也とシェアしよう、いやでもこれは独り占めしたいしな。写真アプリの中に保存された凛花の寝顔、その数90余枚。中でも最も上手く撮れたキングオブ凛花をお気に入りに登録し、ほくほくとスマホをカッターシャツの胸ポケットにしまう。

 そして改めて彼女の顔を覗き込んだ、その時。

 

「…ん」

「!」



 窓側に向いていた彼女の顔が、何の前触れもなく不意に教室側に向く。白い肌は、今日一日晴天の下に(さら)されたせいか頬が焼けて少し赤くなっている。伏せられた長い睫毛は微睡(まどろ)みの中僅かに震え、やがてまた、心地好さそうに寝息を立てた。


「…帰ろ」


 だめだ、なんかここにいると変な気起こす。

 腰に手を添え、もう片方の手は後頭部に置きくるりと体を(ひるがえ)す。それでも意に反しているからか、後ろ髪引かれる思いの方が勝ってしまうんだから仕方ない。数歩歩いて、ピタリと立ち止まった足が床に縫い付けられたように固まり、頼むお願いだから仕事しろと思うのに、無理だった。

 前進はしない癖に、後退はする都合の良い足に、我ながら泣けてくる。

 ぽりぽりと頬を掻いて、椅子の後ろ、そこで片手をスラックスのポケットに入れたまま。彼女の背中をじっと見下ろす。


「………」


 そして自分でも無意識に伸びた手が、そっと。

 彼女の後ろ髪に触れた。




(………ぁ、)


 梳かすように撫でた指先に、確かに彼女の存在を感じた。たったそれっぽっちのことなのに、涙がこぼれそうになった。







 斜陽射し込む、6月終わりの暮れのこと。

 他に誰もいない教室でふたりきり、頬を掠めた風は。

 やがて訪れる、淡い夏の香りがした。