「ようやく腕の見せ所だね」
三学合同リレーの選手待機場所でどぎまぎしていたら、応援で智也先輩が来てくれた。夏の日差しで少しだけ小麦色に焼けた肌はそれでも明るい茶髪の下ではほかの男子より白くて、爽やかで。
朗らかにがんばれ、って言われて強く頷く。
「はい、いっぱい練習しましたから。ぜったい」
「足挫いたぁ!?」
突如届いた声に、顔を上げる。騒いでいるのは赤団、私たちのチームだ。
待機場所の生徒たちが溢れる中背伸びをしたら、取り囲まれている輪の中に、石段に腰掛ける3年のミサキ先輩の姿が見える。
「ごめん、さっき騎馬戦のとき落ちた子支えるのに着地ちょっとミスって…様子見てたんだけど鬼頭先生に見つかって、ストップかけられた」
「いやっ…いやいやいや何言ってんの、今更無理っしょ! どんだけこっちが今日のために練習してきたと思ってんの」
「ごめん…っ、先生に事情話して代役は立てたんだけど」
「代役とかじゃねえって!! お前それ無責任!」
叫んでいたのは、2年生の男子生徒だった。確か、ミサキ先輩とはリレー以外でも家が近所で親交が深いいわゆる幼馴染みってやつだったはず。学年が違ってもタメ口で喋ってるのを、練習中でもよく見かけた。
でもあんまり怒鳴り散らすからか、耐えていた彼女の逸らした顎に皺が刻まれる。…いつも笑顔のミサキ先輩があんな顔になるなんて。だめだそれ以上、と私が前のめりになる前に、性懲りも無くまだ畳みかけようとした2年男子の口を背後から第三者が塞いだ。
「男が無闇矢鱈と女の子に叫ぶんでなーい。はしたない」
間延びした声で発する長身、藤堂先輩だ。
「ムガモゴ」
「え? 何? ミサキちゃんの分おれが本気二割り増しで走ります? わかった期待してるよたぬき君」
「辰巳だぼけっ!」
やっとのことで先輩の腕から逃れた辰巳先輩は、ぜえはあと肩で息をしてぐるりとチームメイトに一瞥をくれる。そして赤い目をきっと光らせた。
「マジありえねえふざけんな、俺たち今日のためにどれだけ練習してきたと思ってんの。ミサキのことはこの際仕方ないよ、でも俺らそれ以上の爆弾抱えてんの忘れたの」
その声に、1年の男子、2年の辰巳先輩、3年のミサキ先輩、———そして藤堂先輩が察したように顔を上げる。



