天気に恵まれた6月下旬、いよいよ待ちに待った翔青(しょうせい)高校体育祭が始まった。


 梅雨の影響で(かんば)しくなかったここ最近の空も今日に限っては快晴。夏を前にして高めの湿度が肌にまとわりつくけどそれは予想の範疇(はんちゅう)だ。


「———では、朝のショートは以上!

 各自持ち場についてくれぐれも怪我ないようになー」

「せんせー赤団優勝したらジュースおごってー!」

「優勝したら(・・・)な!」

「フゥ———!! 俄然やる気出てきたー!」


 いつもより手短に済まされた朝のショートでは担任とクラスメイトのやりとりが成され、黒板には熱意の表れか“赤団絶対優勝”の文字がでかでかと書かれていた。少し前の球技大会でも同じようなフレーズ見たな、と既視感に駆られつつハチマキを頭に巻くも、ずるずるとズレてしまって上手くいかない。

 そうこうしていると手こずる私を見兼ねた誰かが、きゅっと私のハチマキを絡め取った。

「はいっ、出来たよ」

柚寧(ゆずね)ちゃん」

 いつものツインテールを球技大会の時同様、高い位置でポニーテールにした彼女は、私の向かいでにぱっと屈託のない笑顔を見せた。今日は爽やかなレモンの香りがする。


「あ、足。大丈夫?」

「うんもう全快! 凛花(りんか)ちゃんこそ、貧血へいき?」

「あ…うん。その節は、お騒がせしました」


 ハチマキを巻かれた影響だろうか、押忍、と両拳を横腹に置いて俯く私に、彼女はいつも通りくすりと笑ってみせる。

 ここ最近、気を遣って離れてたから久しぶりだ、いつも何話してたんだっけ。思い立ち、即座に顔を上げる。


「柚寧ちゃん…あの、」

「体育祭が終わったら」

「?」

「告白しようと思って、藤堂先輩に」


 好きなんだ、と言われて、わかってたのに心がずしりと重くなった。思い出した頃に目一杯肺に空気を取り込んで、そこで初めて自分が呼吸を止めていたことに気がついた。
 どうしたらいい、どうすれば、いろんな感情がないまぜになって、それで結果、

 全部ごまかして笑った。



「…そっか、応援してる」

「ありがとう…! 凛花ちゃんならそう言ってくれるって思ってた。って、たいへん! もうみんないないや早く行こっ!」

 小柄な見かけからは見当もつかない強い力で引っ張られ、私も慌てて身を乗り出す。思うことはあっても、それを考えるのは今じゃない。目の前の体育祭に集中しないと、だめだ。