耳元で告げられた言葉に目を開く。

 その瞬間。頭のなか。決して触れないように避けてきた私の中の開かずの間が、ギイと音を立てて開き、ダムが決壊するみたいに記憶の洪水となって押し寄せた。チカチカと視界がフラッシュする。断片的な映像はガラス片が体を突き刺す痛みと共に甦って、呼吸がどんどん早くなる。吐き気がする。きもちわるい。

 瞼の裏に浮かぶ忌々しい記憶たちが(せめ)ぎ合い、浮かんでは消えていく。



 閉め切った部屋、

 煙草の煙、

 窓の光、


『——————凛、たのしいことしよっか』


 涙。


 遠く、先輩の私を呼ぶ声が遥か彼方へ消えていく。記憶のフィルムが突然ぶつりと音を立て、私の世界はこと切れた。