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凛花が保健室を出た後、鬼頭はおもむろに柱に背を預け窓の外に投げかける。
「藤堂、あの子の闇は思った以上に深いぞ。お前背負えるか」
逃げるなら今のうち。
鬼頭の呼びかけに、ヤンキー座りで顔を伏せていた藤堂は反応を示さない。鬼頭は痺れを切らしサッシに両肘を置くと挑発的に畳み掛ける。
「それとも怖気付いたか」
「いや?」
先ほどまで保健室のソファで三角座りして弱音を吐いていたその姿は、顔を上げ強い瞳で瞬くと、自身を奮い立たせるように呟いた。
「寧ろ本気で守りたいと思った」
☁︎
結局、保健室に滞在していたせいでいつの間にか夕方になっていた。翌日の体育祭に向け準備は全て終わり、生徒もほぼいない。
泣き腫らした目を隠すように指ですくい、校門に差し掛かったあたりでひょこっ、とそれは現れた。
校門の戸、そこから不自然に伸びた一輪の花。私はぴたと立ち止まる。
「よっ」
「…藤堂先輩」
敬礼しながら現れたのは呼ばれて飛び出ぬただのバカ。バレないように無意識に視線を外す私に、彼はニコニコ笑顔で構わず近寄ってきて、私の前に花を差し出す。私が逡巡する前に、彼はマジックハンドを使って器用に私の学生鞄のポケットに花を刺した。
「…どうしたんですかこれ」
「校門立ってたらさっき花屋のトラックが通りかかってさー、そんで綺麗ですねっつったらくれた」
俺はお姉さんに綺麗だと言ったつもりだった、とか腕組みをして頷くこの人に、人並みの悩みなんてあるのかな。アホらしくて、視線を外したまま噴き出す。そのまま肩を揺らしていると、先輩も柔らかく微笑んだ。
そして踏み込んだ彼の手の甲が、触れないままそっと私の輪郭のラインをなぞる。
「…目、赤くなってんな」
「…コンタクトずれ…いやゴミが、いや虫が」
「どれだよ」
ふっと鼻で笑った声が聞こえて、その感覚が懐かしくてまた泣きそうになる。いけない、ときゅっと唇を結んで目を逸らしたままそれでもこんなこと訊く私はきっと全然、可愛くない。



