「~で、そのチアのフリが…、きゃっ!」


 渡り廊下を駆け抜けていたら一瞬、振り乱した髪の合間に先輩の驚いた顔が見えた。でも構わずに駆け抜ける。

「いった…なに今の、」

「…オズちゃん?」

「ちょっ、ちょっと! 藤堂先輩!」









 つられるように彼女の後を追い、辺りを見回す。一度廊下を抜けてから違和感に後ずさった。目を凝らすと映る、廊下の端。水道で蹲る一人の女子生徒、———あれだ。

「オズちゃんどうし、」

 すかさず駆け寄った直後目を見開いた。びくりびくりと痙攣した背中が嘔吐していて、…ちょっと待てなんでこんなことになってんだ。


「おいどうした!? オズちゃん何があっ」

「ごめんなさ…っごめんなさ、ごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

「オズっ…」

 背中をさするべく、隣にしゃがみ伸ばした手が触れる寸前はっとしてその手を引っ込める。

 だめだ違う。この手は、まだ。


「…、エイにぃっ…」


 蚊の鳴くような声で呼ばれた名前は溶けて消え、しばらくその場所に彼女のすすり泣く声だけが響いていた。