「…凛、」

「…ごめ…寝起きだからかな目が変で、もう平気ありがっ」


 起き上がり、それは相手の横をすり抜ける間際だった。バランスを崩した私を天の河が抱きとめる。即座に離れようと思ったのに、そのまま強く抱き締められた。

 私より背の伸びた天の河の呼吸がして、とく、と届く鼓動に目が冴える。


「…あまの」

「小学生の時にした約束」

「…え?」

「思い出して」


 その言葉に、あの日、天の河が泣きながら私にさよならを伝えた日、彼が私に告げた“約束”が脳裏を()ぎる。


———僕、絶対強くなる。凛花ちゃんみたいに、弱い子すぐ助けられる、かっこよくて、強くなって戻ってくる。だからっ

 その時はきっと、絶対僕が



「凛花ちゃんのこと護るよ」



 あの日の約束が、今彼の言葉と重なって1つになる。華奢で、頼りなくて、意気地なしだった彼は、長い時間(とき)をかけてきっと私のために強くなろうしてくれた。

 だけど。



「…天の河、はなして」

「嫌だ」
「離、」

 ぎゅっと腕に力が込められた瞬間、どくりと心臓が拍動する。彼の肩越しに見上げた白い天井が赤黒いマーブル状に歪んで、記憶が目の奥でフラッシュする。息が上がって、酸素、酸素もっと取り込まなきゃ、って、なって、それで、けむりが、

 それから







 死にたくなる。


 勢い任せに突き飛ばした。

 ワゴンに腰からぶつかって倒れる天の河に、はぁ、はぁっ、て髪を振り乱して怯えてそれで、涙が溢れ出る。

「………触らないで…」
「…ぇ」


「—————気持ち悪いっ…!」



 凛花ちゃん、と呼ぶ声も聞かないで私はどこかに逃げ出した。