「いい加減にしてください」


 終礼が終わり、渡り廊下を歩いていた時だ。中庭の繁みに放った声に、がさっと物音を立てると人影が現れる。漫画みたいに頭に葉っぱを乗せた先輩は、なぜか私より不思議そうだ。

「あちゃ、バレてた? 気配殺してたのに。オズちゃんも察知すんの早くなったねえ」

「ここ一週間ずっと尾けられてちゃ、誰だってそうなるんじゃないですか」

「言い方冷たくなーい? てか今日ずっと俺のこと避けてたろ。いつになく見かけないわでやっと見つけたと思ったらこの扱い」

 長い足で軽々と繁みを乗り越えると、彼は自身についた葉っぱを手で払いながら言う。見限って行こうとしたら、大きな手に行く手を阻まれた。


「なんなんですか? 人のことからかってそんなに楽しいですか」

「からかってねーよ。“付き合って欲しい”って、真剣に交際を申し込んでんの」

「あなたの真剣は意中の人にウザがられても追いかけ回すことなんですね」

「駆け引きは恋愛における最高のスパイスだからね」

「あなたに私の何がわかるんですか」


 強気で叫んだのに、弾んだのは私だけだった。目の前の男は口角を上げたまま、悠然とこっちを見据えている。

「誰に(けしか)けられたか知らないですけど、何も知らないくせに、わかったようなこと言って近づいてくる人間なんて絶対信用出来ない」

 肩に提げた学生鞄の持ち手を握り、踵を返そうとする。そしたらタイミング悪く男子高校生二人が並んで歩いてきて、たじろいだ瞬間廊下の隅に追いやられた。

 まるで囲い漁のよう。さしずめ私は魚、先輩は漁師だろうか。


「…あなたみたいな軽いひと大っ嫌い、どいてください」

「はは、ヒドい言われよう。もしやオズちゃんクラスの子達にもそんな感じの塩対応? その調子じゃ友だちなんか出来ねーわな」

「なんっ、」

「教えたげるよ? 人と上手くやる方法。
 だから固いこと言わずにさ、—————俺とたのしいことしようよ」