「気に入った」

「え」
「男性恐怖症…だっけ?いや智也が言ってた通りだな~ あ、智也って俺の親友ね」

 聞いてもいないのにベラベラと、何を語り出すんだこの人は。と言うかさりげになんで私の事情割れてんの、と思った辺りで、はたと目があった。

「小津凛花、俺と付き合わない?」

「嫌です」

「えー即答。まぁ断られるとは思ってたけどね~なんとなく。ってか名前長いからりんりんって呼んでいい?」

「嫌です」

「じゃありんたん」

「嫌! 下の名前嫌いだから、って言うかなんで私の名前知ってるんですか」

「しゃあねえなー100歩譲ってオズちゃんね」

「人の話聞いてください!」


 初対面の人間にここまで本気で叫んだのは初めてだ。久しぶりにあげた大声にぜえはあ肩で息をして、ぐっと唾を飲み込む。その間もヘラヘラ笑ってるこの男がムカついて堪らない。出来るのなら殴りたい、問題になりたくないから思うだけでしないけど。


「ま、でも拒絶される方がやりやすいし燃えるよね」
「は…」

「ぜってー落とす」

 少女漫画のヒーローかってほど持ち前のルックスをフル活用した先輩は、その日を境に、私に付きまとうようになった。


 ☁︎


 どこにいてもあのひとは私を見つけてくる。例えば移動教室。お昼休み。休憩時間にちょっと売店に行ったときでさえ、どこからともなく現れると先輩は声をかけてきた。

 それがまた先輩一人のときもあれば、取り巻きが多いときもあったりするから困る。成績優秀、眉目秀麗、おまけに運動神経まで抜群な彼だ。学校1のプレイボーイ・それ以前に獲得した彼の絶大な人気は女子の目に留まらず、教師まで一目置いている。それはすなわち、彼に関わった時点で否が応でも陽の目を浴びてしまう、ということ。慎ましやかに過ごしたい、そんな私の意見など二の次で。

 要するに、あのひとは。平凡な私の生活を乱す、邪魔な因子でしかない。