まじまじと天の河の顔を覗き込む柚寧ちゃんはその間も先輩の腕に絡みついたままで、天の河も少し困ったように眉を下げて笑ってる。そして十分堪能したのか、柚寧ちゃんはぱっ、と顔を背けると先輩を上目で見た。

 さながら仔猫のような潤んだ目が、まるで小動物か何かみたい。


「あ、そだ。藤堂先輩、今空いてます? レクリエーション委員の先輩が、チア完成したんで是非先輩に見に来て欲しいって」

「チア?」

「あ、うん! ゆずたち部活の出し物で、チアガールするんだぁ。それでこの衣装も作ってもらったの。この前先輩も見にきたんだよ。ねーっ」

 ね、と顔を傾けた可愛い以外説明しようがない柚寧ちゃんに、先輩も腕を絡まれたまま何も応えずに少しだけ目を、細めた。…え、


 なにそれ。


「ね、先輩早くいこ?」

 相変わらず先輩の腕に絡んだ柚寧ちゃんが、ねえ、って甘えた声で上目を向ける。それを彼は軽くいなしているつもりなのかもしれないが、はたから見たらただイチャついてるだけにしか見えなくて。

 何だろう、今、練習中、…なのになあ。

 そうだよ、さっきから。女の子とっかえひっかえ、それに加えてにこにこ笑っちゃって、はは、なに。






 なんなんだよこの男。


「…偉そうなこと言えた口?」

「あ?」

「人に偉そうなことほざいといて自分のことは棚上げとかあなたみたいな人がいるからチームの輪が崩れるんじゃないですかって言ってんだよくそったれ」

「…り、凛花ちゃ」

「はぁあああ? そんなくそったれを主戦力呼ばわりしてたのはどこのどいつでしたっけえ俺より足の遅いお嬢さん」

「たかだかコンマ数秒で大袈裟よ!」

「負け犬の遠吠えにしか聞こえねえ!」


 お互いがお互いを超えるべく、時期にヒートアップした言葉は周囲の視線を買いまくり二人して睨み合う。
 ばちばちと火花が散る中で、勝ち目がないと踏んだ私は思いっきり息を吸い込んだ。

「この───っ、すけこまし!!」

「すけっ…!?」

「行こう天の河!!」

「えっ、ちょ、凛花ちゃん!」

 辺り一面に怒声を響かせて。振り向かずに呼んだ声に、天の河は一拍遅れて付いてくる。その後ろで先輩が石化していようがなかろうが、この際私が知ったことではなかった。