「──────小津凛花!!」
急にその声が耳に飛び込んできて、はっと現実に引き戻される。
辺りを軽く見回せば今は、授業中みたいで。
クラスメイトの視線を総なめにした私に、黒板の前に立った数学の先生が目をつり上げている。
「素因数分解の解答、わかる!?」
「………あ、えっと…」
黒板にじっと目を凝らし、教科書にも目を落とす。かと思ったら開けてるページはおろか教科書自体が日本史で、私はにへら、と中途半端な笑みを浮かべて黒板を見た。
「………ぜ、ぜろ?」
「違います。廊下に立ってなさい」
(…いまどき廊下に生徒つまみ出す先生なんているんだな)
オールドファッション。なんて思いつつ、ぼーっと窓の外を見る。
結局あれから、天の河とはそれっきりで。はじめの頃は電話や、手紙も何通か書いたような気もするけど、いかんせんずぼらな私が続けられるはずもなく、最低だけど、そんなこんなでやり取りが手薄になっていって。
ちゃんと会ったのは、七年ぶりだ。
背も伸びてて、ちゃんと男の子になっていて。天の河に言われるまで、結局誰かもわかんなかった。
「…人って、変わるもんだな」
「あれ、小津。授業中に何やってんの」
ひとりごちると、隣の教室から出てきた鬼頭先生とばったり、会う。私は相変わらず綺麗な先生の顔を見て、ぱちぱち、と瞬きをした。
☁︎
「そっ、素因数分解で0はないでしょっ…」
「そ、そんなに笑わなくったって…」
「だぁっておま、0って…あー腹痛い」
ひいひい言いながら目尻に溜まった涙を指ですくう先生は机上に肘をつき、オフィスチェアで足を組んでいる。黒のタイトスカート、そのスリットから覗く美脚は今日も今日とて健在で、目のやり場に困る。
休み時間、先生に出会したのを理由に私は保健室に来ていた。図らずしも昔の馴染みと再会を果たしたこの場所で先生にしたのは、天の河の話。



