そんな初見があって、以降も似たようなことが二度、三度、七度、八度と続くたび、天の河を助けるのは私の役目になって、天の河が困ったときに私に助けを乞うのも、いつしか当たり前になっていった。





『階段降りてるときに背中蹴飛ばすなんて、今回は低かったから良かったけど…ちょっと間違ったら大怪我になってたわよ』


 例によって蔵馬たちにいじめられ、泣き噦る天の河のおでこにガーゼを貼りながら、保健の先生が言う。あいつらの気に食わないところは、私じゃなくてわざわざ天の河に手を出すところだった。
 私がやり返すからかと思い、やめたこともあったけど。でもそれだと天の河がただやられるだけになって、それはもっと気に食わなかった。


『安心して天の河。あんたの(かたき)は私が取る。今度蔵馬が給食の大おかず飲んでるときにシャイニングウィザードを決める』

『小津さんそれは絶対にやめなさい』
 
 だめよ、と念押しされて席を立つ先生にはぁい、としょげて、ぐすぐす泣き噦る天の河を見る。
 丸椅子の上に膝を抱えるように座った彼は、大きな瞳に宝石を抱えていた。

『…凛花ちゃん、ごめんね』

『なんで天の河が謝るの。あんたは何も悪いことしてないじゃん』

『でも…っ、僕のせいで、いっつも、…せ、っ、せんせいに怒られたりするし、』

『それはそうかもね。でも私は間違ってるとは思わないからやめない。お礼は今日のクリームシチューのカリフラワー食べてくれたらゆるす』

『ぼっ、僕、女の子になりたかったよぉ…』


 そんなの、今更言ったってどうしようもないことだ。

 そんなんだったら、私だって女の子に生まれたけど、別に男の子に生まれたってよかった。どのみち多分自分らしく生きただろうし、それは天の河にだって言えることで。


『天の河。別にやり返せとは言わない。でも、たぶん肝心なのは、あんたがどうしたいかだよ。変わりたいって気持ちがなくちゃ、私たちずっとこのままだよ。男の子でも、女の子でも、それは同じだと思う』

『…』

『天の河は、どうしたいの?』

 私の問いかけに、潤んだ瞳が瞬いて大粒の雨が降る。


『っ…ぼくは…っ、 …僕は、だ、だれかを傷つけるくらいなら、傷つけられた方がいい…』