「…僕のこと。覚えて、ない?」

「………? 今朝、会いましたよね」

「…うんと、その前」

「………どちらさま」

「はー…、やっぱりか」


 文字通りがっくりと肩を落とす彼を横目に、私の中の警戒レベルは上昇していく。何だろう、新手のナンパか? こんなことなら先輩について来て貰えば良かった。そうおずおずとファイティングポーズを取る私に、眉間に手を置いた彼はちらりと私を見る。

 そして。


「────“凛花ちゃんには敵わないや”」

「………え?」



───女の子になりたかったよぉ…

───僕、大きくなったら凛花ちゃんになる

───その時はきっと、絶対僕が、






「………天の河(あまのがわ)…?」


 頭の中で、一気に再生される記憶のフィルム。あどけない泣き虫が目の前の彼の姿と重なった時、自分の中で止まっていた時計の針が確かにかち、と動き出した音がした。





「久しぶりだね、凛花ちゃん」