前に先輩と一度来はしたものの、別に普段保健室に用事があるわけでもなければ、そのときしっかり中を見たわけじゃないから物の配置がよくわからない。指を咥えたまま一通りぐるりと見渡すと、ようやくガラス棚の中に救急箱を発見した。
片手で引き戸を動かし、それに手を伸ばす。そこで、私は二点の失態を犯した。
まず一つは、傷を負った指を咥えたまま横着をして片手で引き戸を開けたこと。二つ目は、引き戸の建てつけが悪いと知って、力ずくで救急箱を引っ張り出してしまったこと。
そんなの。
救急箱の蓋が閉まってないことをきちんと確認しておけば、
「ぁわっ…!?」
バランスを崩して、盛大に中身をぶち撒けるなんてことしなくて済んだのに。
がしゃぁああぁん。そんな激しい音と同時に、真横のベッドから誰かが飛び起きた音がした。そして閉まっていたカーテンが、一気にシャッと開かれる。
───────そこで、彼と目があった。
「………」
「………」
「……ぁ」
今朝の、体育委員…、くん。
突然のことで両手で耳を塞ぐ私、その隣。無人だと思い込んでいたが実は人がいた、ベッドの上で瞬きを繰り返す男の子。窓から射し込む光を受けて、透き通った女の子みたいな白い肌と、漆黒の髪が揺れる。
私の中で彼が「塩見」という名前だったことを思い出すのと、ごめん、と声を発するのはほぼ同時だった。
「…ひ、人、いるって思ってなくて」
「、」
「ごめん、寝てるとこ。邪魔した」
何だか、衝撃的な一瞬だったな、今の。
未だにばくばくと鳴る心臓は、大きな音で驚いただけではなさそうだ。未だにベッドの上で動かない塩見の、ネクタイを解いて、第二ボタンあたりまでを外した白のカッターシャツ。角度的にちょっといけないものを見た、いや見てない。そう心の中で悶々としていると、よそ見をしてこめかみをぽりぽりと掻いた彼がゆっくりと立ち上がった。
「あのさ、」
「っ!」
男の人が動くと構えてしまう私の事情を知っていたのだろうか。とっさに身を強張らせる私に、彼ははだけたまま両手を挙げて降参の合図をする。