「───あの、」

「んっ?」

「傘っ…、入ります、かっ!」

「…」

「…」

「…」

「…」

「へっ?」 


 (うつむ)いたまま真っ赤になって傘を突き出す私を雨は容赦なく叩きつける。次第に髪の表面が少し濡れて、それでもめげずにぎっと相手を睨みつけると、腕組みをしたままぽかんとした顔を浮かべる藤堂先輩と目があった。


「──────返事はっ!?」

「は、入る! めちゃくちゃ入る!!」

「傘持ってください!!」

「了解です!!」

 どこか釈然としない様子で、それでも棚ぼたに見舞われた子どものような表情で。傘を持った先輩の隣、彼に触れないよう、息を潜めて黒猫さんを抱きしめる。

 そこで浮かんだのは今朝のお目覚めテレビの占いだ。


“────今日最も良い運勢なのは双子座のあなた!
 勇気を出して、素直に気持ちを伝えてみましょう!”


 ちくしょう、お目覚めテレビめ。


「えーどうしよ…まさかオズちゃんと相合い傘出来る日が来るなんて…やべーな鼻血止まんねーな俺もうこのまま死んでもいいかも」

「ご冥福をお祈りします」

「死にませーん! めちゃくちゃ生きますぅ!」

「ちょっ、こっち寄んないでくださいよ!」

「あんま離れたら濡れんだろ!」


 ぎゃあぎゃあ二人で騒ぎながら並んで歩く帰り道。

 もうしばらくお目覚めテレビの占いは見ないと、心に誓った16歳のはじまりのことだった。