「はいおっけ! わたしの連絡先登録しといたよ!」

「今の儀式で!?」

「儀式って! イマドキ普通だよー」


 それじゃ、放課後よろしくね! そう言って自分の席に戻る柚寧ちゃんを見送って、スマートフォンをじっと見る。

 よく家族と連絡をするTALKアプリを見ると、友だちのところに新しく「ゆず」と名前が追加されていて。加えて人生初の「寄り道」に胸が弾み、私は口をきゅっと結んだまま目をぱちぱちさせてしまった。


 ☁︎


「───というわけで放課後付いて来てください」

「ちょっと待てい」


 時は流れて、お昼休み。食堂前の自販機で緑茶を購入する私に向かって、藤堂先輩は手のひらを突き出した。

「今の話のどこに納得のいく点があったと」

「あるじゃないですか。いじめられるの好きでしょ」

「誰がいつMっつった!」

「可愛い子にいじめられるなんてそうそうないもんな、羨ましいよ」

智也(ともや)超棒読み! もっと感情込めれば!?」

 今日のお昼は購買のパンなのか、戦利品のやきそばパンを智也先輩に突き出す藤堂先輩に、彼は笑顔のまま私に視線を移す。

「それにしても良かったね、小津さん友だち出来たんだ」

「そのやりとり前回したからもういいよ、上書きしないでくれません」

「はい!」

「俺が言ったときより元気よく返事しないでくれません!」

 何俺ツッコミばっかなんだけど! と声を荒げる先輩に、私は真顔のままストローを緑茶パックの穴に刺す。自販機にはミックスジュースやいちご牛乳などが目白押しだが、日本人たるものやっぱり飲むなら緑茶でしょ。あーおいし。

「嫌なんですか?」

「全然」

「ならいいじゃないですか」

「いやいいんだけど。男一人って~のがなー、智也、お前一緒に来る?」

「おれはパス。今日帰り本屋行く予定だから」

「甘いもの好きなくせに!」

「お前がいつもおれに突き出してくるから自動的にそうなったんだろ」



 うーんやっぱ仲良いなぁ。

 やいやい言い合い口論になる二人を見上げながら、ふと柚寧ちゃんの姿が二人とダブる。私と柚寧ちゃんもこんな風に心許せる友だち、になれるのかな。笑って、泣いて、そんで怒って喧嘩して。

 でも喧嘩は極力したくないなぁ、なんて思っていたらいつの間にか手に持ったお茶の半分ほどを飲み干していた。大変。水筒を忘れたから買いに来たのに、これじゃ教室でお弁当を食べるとき飲むものがなくなっちゃう。