「りーんっかちゃん!」

「わっ!」

「おはよー! 今日も可愛いね~!」


 登校して自分の席に着いた途端、柚寧ちゃんがひょこっと真上から顔を出した。

 悪戯っぽく歯を見せて笑ってるけど、言ってることはどっかの先輩とどっこいだ。
 

「ねえねえねえ! ちょっとこの写真見て!」

 かと思ったら前の席の椅子の背もたれを掴んで引き、そこに座るとずい、とスマホを突き出してきた。
 ピンクのシリコンケースに入れたスマホの画面には、でかでかとパンケーキの写真が映っている。

「超~~~美味しそうじゃないっ? 今町で話題のパンケーキ! 鉄板で焼きあげて、生地もふあっふあなんだって~!」

「ふあふあ…」

「そう! ふわっふわ(・・・・・)じゃなくてふあっふあ(・・・・・)…!
 甘いホイップにアイスクリームも付いてるの、味も苺に桃にメロンでしょ、えへへよだれ垂れてきたあ」

 両頬に手を添えて、本人は無意識なのか口が小動物になっている。元から唇が薄めで、所謂(いわゆる)あひる口によくなる柚寧ちゃん。今日も今日とて可愛いなぁ、とか思っていたらしゃきっ、と身を起こして敬礼した。

「てことで今日はここに行きましょうっ!」

「え、今日?」

「うんうん。ほら、こないだパンケーキ食べに行こって約束してたでしょ? だから今日行こっ、放課後に! 藤堂先輩も誘ってさ!」

「なんで先輩が出てくんの」

「突然目つき鋭くなったねえ。えーだってさ。女の子だらけのパンケーキ屋さんだよ? 先輩がいる絵面とか、明らかに場違い過ぎて楽しいじゃん」

 悪戯ににしし、と歯を見せる柚寧ちゃんはどっからどう見ても小悪魔だ。困ってるの見てるの楽しーし、ねぇお願いお願い、って腕をすりすりされてうーん、と私も目を閉じる。

「…わかったよ、今日聞いてみる」

「わーっ! ありがと! 凛花ちゃんだいすき! …あ。あとね、凛花ちゃん今スマホある?」

「え? 一応あるけど」

「貸して?」


 言われるがままに鞄の中からスマホを出し、柚寧ちゃんの手に渡す。

 柚寧ちゃんのみたいにパステル調の可愛らしい色味じゃなく、シンプルな猫のロゴが入った黒いシリコンケースのスマートフォン。
 その連絡先には今なお家族しか登録されておらず、毎日学校に持ってはくるものの充電は減らずで、今でもお母さんに何のために買ったんだかと首を傾げられてしまう始末だ。

 柚寧ちゃんは私のスマホと自分のスマホを突然振ると、満面の笑顔で私に突き返した。