この展開は、なんというか。

「ん、」

 非常に、分が悪い。

「…」
「?」
「ごめん、あの、プリント」

 置いてもらっていいかな。

 消え入りそうな声で呟いた。嫌なことを言ってるのはわかってる。言ったら絶対嫌われる。そんなことはわかっていた。だから覚悟も出来ていた。真顔のまま、少し伏し目がちに言うと、窓からの風を受けて髪がやや揺れた。心の動きみたいだった。

「え?」

 案の定、キョトンとする二人組。そして事を察した一人がべすりと、もう一人の肩を小突いた。

「お前からプリント受け取るの嫌だって」
「え、ちょそれヒドくねえ!? わざわざ届けに来たのにさ」
「あ…いやそういう訳じゃ」

「違わねーじゃん」

 笑顔に見えて、目は笑っていなかった。プリントを持った男子生徒が軽い息を吐き、二人で行こ行こ、と声をかける。すれ違いざま、プリントを私の腕に投げつけて、

「感じ悪」

 そんな言葉を吐き捨てた。

「………」

 汚いとか、綺麗とか、そういう話じゃない。違う。違うし、違うけど、

 違わない。


「…ぁ」

 上履きの横に落ちたプリントに、窓から流れ込んできた桜の花びらがひらりと乗った。頬をかすめる甘い香りに、きゅっと眉根に皺を作った。春なんて嫌いだ。始まりを思い知らされる。桜なんて大嫌い。早く枯れちゃえばいい。
 馬鹿みたいな八つ当たりは虚しいばかりで、とぼとぼ歩いている内に昇降口に辿り着いた。

 落ち込むのは後にしよう。だって今に始まったことじゃない。だから感情だって殺してきた。今の私には他にやるべきことがある。
 目指すは三年の下駄箱。数ある箱の中からそのひとの名前を指で辿って。

 〝藤堂〟と書かれた箱を見つけて扉を開いたその瞬間。

「なーにやってんの」
「!」

 背中から届いた声にすぐさま振り向くと、私の顔の横に誰かの手が叩き込まれた。



「つかまえた」