通勤の途中、吐き気に襲われて 電車を降りたことも 何度かあった。
トイレまで 我慢できずにホームで 吐いてしまったことも。
そんな時佳宏は、美咲をベンチに休ませて、吐いた物を始末してくれた。
「佳宏、本当にごめんね。」
美咲が 青い顔で佳宏に言うと、
「気にしないで。美咲は もっと苦しいんだから。」
と佳宏は 優しく答えてくれた。
毎日『気持ち悪い』と言っている美咲を、佳宏は 嫌がらずに労わってくれた。
食事の準備ができなくても、嫌な顔もせずに。
「子供を育てるって 大変なことだから。まずは この試練を 二人で乗り越えられるか、子供に試されているんだ。」
夕食後、まだペチャンコの お腹を撫でて、佳宏は 美咲に言う。
「えー。そんな風に言ったら、この子 すごく意地悪みたいだよ。」
美咲が 笑いながら抗議すると、
「それもそうだね。」
と佳宏も苦笑した。