「抵抗しない朱莉ちゃんに、怒ってる。」
いっつもヘラヘラしてるくせに、こんなときだけ真面目な顔で、低い声をだす金森。
「そんなの、私の勝手で「違う。」え?」
いきなり強い声で私の言葉を遮られた。
「俺さ、生徒会が大事なんだ。朱莉ちゃんが言ったように、傷の舐め合いかもしれない。でも、お互いに分かっているから、過去の話なんてしない。それがどれほど心地よくて安心できるか…」
そっと目を伏せて語る金森。
長い睫毛の影が瞳にかかって、なんだかドキリとしてしまった。
「俺たちはさ、不完全で、不安定なんだよ。大切なものが欠けていて、それが不安でたまらない。怖くてたまらないんだ。」
高い峡谷にかかる、壊れかかった吊り橋。
グラグラしてて、不安定。
下を見れば足がすくんで動けない。
今にも落ちていってしまいそう。
記憶が欠落しているゆえの、恐ろしさ、不安。
その恐怖感を…私もまた、知っている。

