Your Princess

私もレジャーシートの上に座る。
汗をかいた顔に湖からやってくる冷たい風が心地良い。
じっと蘭を見ると。蘭もこっちを見た。
「あの屋敷から出ていくことになった」
蘭の一言に、私は思わず「誰が?」と訊いた。
蘭は食べていたリンゴを置いて。
湖のほうを眺めた。
「オレとおまえ。…あの敷地内にいる奴ら全員だ」
「…引っ越しですか?」
私の質問に、蘭は深いため息をついた。
「俺はおまえを守ってやれなかった」
急に何を言い出すのだろうと思った。
蘭は「あー」と声を出して。頭を抱え込んだかと思うと。
「言うのがなぁ…」
とブツブツ独り言を唱え始めた。
言いたくないなら、言わなきゃいいのにと。
蘭を見ながら。今のうちに水分補給しなきゃと。
蘭の目を盗んで、ジュースを飲む。

蘭は何度もため息をついた後。
ようやく、こっちを見た。

「カレンのことが好きだ」

一瞬、「ふーん」と聞き流そうとしたが。
「ん?」という声が自分の口からこぼれた。
何を言い出すのだろう…この男。

好きという単語に。
心臓がバクバクと鳴りだした。
顔に熱が帯びていく。
蘭は真顔だった。
「ありがとうございます」
とりあえず、頭をさげる。
恥ずかしくて、まっすぐ蘭を見ることは出来ない。

蘭は私を見て、「ちっ」と舌打ちをした。
「おまえ、冗談だと思ってるだろ? こっちは勇気出して言ったのに」
「…そんなこと言われましても」
絶対に冗談か、社交辞令だろうとしか思えない。
思えない…と思っているくせに。
心臓はバクバクとうるさい。

蘭はまたため息をついた。
「おまえは、アズマに頼まれたからだと思ってるだろうが、違うんだ」
「え?」
「別に俺はアズマにおまえのことなんて頼まれてない。俺がおまえを好きになって結婚しただけだ」
「……え?」