Your Princess

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また、夢を見た。
どこか、見覚えのある花畑に私は立っていた。
「カレン、久しぶりだね」
目の前に現れたのは、お兄様だった。
お兄様が現れたことで、これは完全に夢だということを自覚した。
お兄様は元気そうに笑っている。
「元気に・・・生きておられたのですね」
久しぶりの再会に、心から嬉しいと思う。
「心配かけてすまなかった。俺はちゃんと生きてる。心配するなよ」
そう言って。お兄様は大きな手を私の頭に当てて、ぽんぽんと撫でた。
「お兄様、家が燃えて…お父様とお母様が…」
大事なことを伝えなければと思った。
でも、お兄様は「ああ」と表情一つ変えることなく頷いた。
「あの人達のプライドは凄いよねー。自作自演で家燃やすんだから」
「やっぱり…そうなんですね」
貴族としてのプライド。
両親の頭には、それしかないのだろう。
「あの人達は、あの人達なりにちゃんと生きてるから大丈夫だよ。俺もちゃんと生きてる。だから、心配しないで大丈夫さ」
お兄様の言葉に安心して涙があふれてくる。
「蘭様と結婚したんだって? 幸せなことじゃないか」
「お兄様は何でもお見通しなんですね」
まるで、側でずっと見守ってくれたかのようだ。
「お兄様が蘭に頼んだのですよね? 私のこと」
そう言うと。お兄様は「えっ」と驚いた後。
微笑んだ。

お兄様と私・・・見た目は、あまり似ていないけど。
同じ紫色の瞳を持っている。
お兄様は笑っていた。
ゆっくりと、景色が薄くなる。
やっぱり、夢か。
でも、素敵な夢だったな。

「起きたか」

蘭の声だった。
目を開けると、心配そうにこっちを見ている蘭の姿があった。
見慣れた天井。
見慣れた部屋。
戻ってこれたのだと思った。
そして、蘭が助けてくれたのだとすぐにわかった。

「助けてくれたのですね」
辺りは信じられないくらい静かだった。
カーテンの隙間から、光がこぼれ入ってくる。
蘭はとても美しく見えた。
口は悪いけど、やっぱり整ったカオだなと思ってしまう。
蘭はじっと、こっちを見ている。
「…正確に言えば、俺じゃなくてローズが助けたんだけどな」
ふぅ…とため息まじりに蘭が言った。
素直な人だなと思う。
でも、私は知っている。朦朧とする中で蘭の声が聴こえた気がするのだ。
この男の声は、大きい。
頭に響くのだ。
助けてくれたのは、事実だ。

「蘭・・・、サクラさんは?」
上半身を起こして、周りを見るが、蘭しかいない。
静かだ…
「おまえ、お人好しにもほどがあるぞ」
蘭が怒った表情でこっちを見る。
「サクラとライト先生は、ちゃんと捕らえた」
「…捕らえた?」
蘭の言葉に瞼がピクピクと動く。
「待って。私が勝手にサクラさんと外出して…それで・・・だからって」
言葉が上手く出てこない。
どもってしまう。
「まだ横になってろ」
と言って蘭は手のひらをヒラヒラとさせた。
「おまえを誘拐して身代金を要求したのは事実だ。罰せられるのは当たり前だろ。大丈夫、死刑にはなってない」
「しけ…い!?」
何の権限があって蘭はそんな恐ろしいことを言うのだろうか。
私は眩暈を感じて再びベッドに横になった。

「当分は侍女がいないが、我慢してくれ」
冷めた目で蘭が言う。
サクラさんのことを悪く言う蘭を受け入れることが出来ない。
睨みつけるように蘭を見てしまうが。
ふと、気づいた。
「どうして、私のこと怒らないの?」
元はとはいえ、勝手に外出して誘拐されたのは自分のせいじゃないか。
蘭のことだから、「おまえがぼーとしてるのが悪いんだろ」ぐらい言ってきそうだが。

蘭は無表情でじぃーとこっちを見つめた。
「…何で、怒る必要がある?」
質問したはずが、逆に質問されてしまった。
「…蘭、身代金払ったの?」
話をそらそうと、違う話題を振る。
蘭は「は?」と声を漏らした。
「おまえ…、ローズを怒らせたらどうなるか知らないのか?」
「…え、蘭。私は今、ローズさんの話はしてないけど」
会話が噛み合わない。
蘭は「あ、そうだった」とばかりに、「あちゃー」と顔をしかめた。