涙が枯れる…ということは決してないのだと思う。
バラ園の前にあるベンチの前に私と渚くんは並んで座った。
渚くんは私が泣き止むまで、じっと黙って待っていてくれた。
「なんか…安心しちゃって。ごめん…渚くん」
泣きはらした目で渚くんを見ると。
「大丈夫! 俺、頼られてるってことだよね?」
太陽のようにまぶしい笑顔を見せてくれた。

夕方とはいえ、まだまだこの時間帯は暖かい。
鼻をすすって。
「そういえば、クリスさんは?」
「クリスは買い物ー。サクラさんへプレゼント買いに行くって言ってたー」
あっけらかんと答える渚くんに「そう」と頷いた。
クリスさんは、それなりに自由に行動できるってことだろうか。
「ビビもね、クリスとお買い物ー」
と言って渚くんは口を尖らせる。
…ということは、渚くんとサクラさんは自由に行動が出来ないってことか?

「あのね…渚くん」
「うん。何?」
「…どこまで、聴いている…のかな?」
言葉を慎重に選んだつもりではいるけど。
渚くんがどこまで知っているかによって話は変わってくる。
渚くんは首を傾げていたけど。
「えーと。ローズが屋敷に押しかけてカレンにちょっかいだして蘭がキレて、カレンを軟禁状態にして。で、カレンと蘭が喧嘩して蘭が倒れて例の病状が出て…で。合ってる?」
例の症状…という言葉に。
やっぱり私以外の皆は知っていたのかと納得した。

「蘭は口が悪いし、時々。暴走するからね。たまに喧嘩するくらいが丁度良いんだよ」
大人っぽい口調で冷静に言う渚くんを見ていると。
やっぱり同い年なんだなーと思ってしまう。
「でも、やっぱり俺は蘭の考えには賛成するかな」
「え?」
幼い顔ながらも。
黒い瞳がはっきりと私を映す。
どこか大人っぽい。
内側から秘めた大人ぽさといえば、いいのか。
たまに、渚くんはドキッとするような大人の表情をする。
「ローズはろくな奴じゃないから。カレンが軟禁状態になっても、それは仕方ないって思ったよ」
「…渚くん?」
渚くんは下を向いた。
かと、思えば上を見上げた。
「ローズのことを話すことは禁じられてるから。あんま話せないけど。蘭はちゃんと考えてカレンのこと守ってるんだから」
「……女の人に触れられなくても?」
小さく言ったつもりが。
渚くんは「えぇ」と驚いて、身体が一瞬跳ね上がった。
「もう、そこまでバレてんの? え、もう二人はそういうかんけ…」
「そういう関係?」
渚くんの言葉をオウム返しすると、渚くんは「やだー」と大声を出した。
「カレンのことどんだけ好きなんだよ、蘭は」
「いやあ…私。完全に嫌われたからね」
「あ、そうか。今、喧嘩中なんだよね」
急に渚くんは笑顔になった。
喜怒哀楽が本当に激しい男の子だ。

「それで、蘭と喧嘩してカレンは落ち込んでるの?」
「…んーん。違うの」
渚くんに会っていない間の出来事をぽつりぽつりと話し始めた。
渚くんは相槌を打ちながら、話を聴いてくれる。
「私、ここにいちゃいけないと思うんだ」
気づけば、日が傾いて夜になろうとしている。
そろそろ、部屋に戻らなければならない時間帯だ。
「…それは、カレンの本心?」
渚くんが私を見る。
じっと見る。
「カレンって、もうちょっと我儘言ってもいいと思うけどな」
「え…?」
「いや。何でもない。それより、そろそろ戻らないとだね」
そう言って、渚くんは立ち上がる。
「あ、あと。渚くん。サクラさんのこと知りたいんだけど」
「…蘭の次はサクラさん?」
渚くんは再び座った。
「サクラさんってどんな人?」