蘭に自由にすればいいって言われたけど。
どうしていいのかわからなかった。
ずっと憧れていた外に出てみようかと思い、門の前に来てみたけど。
勇気が出なかった。

嗚呼、私。帰るところないんだった…
お母様の実家がどこにあるかもわからないし。頼れる人だっていない。
働いたことがないから、どうやって稼いでいいのかわからないし。
そもそも、この顔だからな…

馬鹿だ。
本当に、自分は愚かものだ。
ずっと、蘭は私を守ってくれていたのだ。

でも、今更。蘭に心を開くことなんてできない。
都合の良い女なんてなれないよ。
「カーレン。もう寝る支度した?」
鏡台の前で髪をとかしていたら。
サクラさんが部屋に入ってきた。
「今夜は本でも読んでから、寝ようかなって」
「そう。ちょっと私と話さない?」
そう言って。サクラさんはどさっとベッドに座った。

薄暗い空間の中。
何の話だろうと、立ち上がってサクラさんの隣に座る。
「カレンにお願いがあるの」
「…また、服が欲しいとかですか?」
サクラさんの願い事はたいてい、服や化粧品が欲しいという内容だった。
だから、今回も何か欲しいと言ってくるのだろうと思った。
「あのね。カレン。私を外に出してほしいの」
「ん? どういうことですか」
お願い事が意外すぎて首を傾げる。
「外に出たければ、サクラさんだったら出られるんじゃ…」
「あのね」
みるみるとサクラさんの表情が曇っていく。
綺麗な顔が台無しだ…
「カレン。あんた、自分だけが縛られていると思ったら間違いだからね」
低い声を出してサクラさんが言った。
「サクラさんも、出られないんですか?」
まさか…と思った。
サクラさんは四六時中屋敷にはいない。
本当に居ない日は、ずっと姿を現さないものだから。
てっきり外出しているのだとばかり思っていた。
「当たり前でしょう! 私だって自由に外になんか出られない」
「……」
意外すぎて瞬きしてしまう。
「カレンさー。クリスを牢屋に入れて罪悪感はないわけ?」
「えっ」
サクラさんは怖い顔で私を見ている。
いつまでたっても、サクラさんの心の中には。
あの牢屋での出来事が残り続けているのだろう。

私が黙っていると。
「罪悪感があるならば、私の言うこと聴いてくれてもいいよね?」
そう言って、サクラさんは怒りながらも笑った。
サクラさんは、いつだって。
怒るか、笑うかのどちらか…両極端だ。
「具体的に私は何をすればいいんですか」
まさか蘭に頭を下げろとでも・・・?
「簡単よ! 私と一緒に外に出てくれればいいの。問題ないでしょ」
「え・・・」
「カレン。蘭と喧嘩したんでしょ? 別に問題ないんじゃないの?」
ハッと鼻で笑うサクラさんに私は絶句した。

「今、計画をたててるから。決まったら教えるわ。おやすみ」
そう言ってサクラさんは出ていってしまった。