Your Princess

私には4つ年上の兄がいる。
名前は、アズマと呼ばれている。
お兄様は、私と違って物凄く頭が良かった。
常に学年トップを誇る秀才っぷりで。
頭の良いお兄様を両親は溺愛していた。
両親にとって、お兄様は自慢の息子だった。

お兄様は頭が良いのだから、なんにだってなれたはずなのに。
両親の豪遊ぷりを目の当たりにして。
大学には進学せずに。
蘭が住むスペンサー家で働くことにしたのだ。
コレは…本当に恥を忍んだ行為だったみたいで。
よく侍女たちが言っていた。
「アズマ様は本当に肝が据わっていらっしゃるわ」
「貴族の身の上で、親戚に頭を下げて、親戚の元で働くだなんて」
そうなのか。
お兄様は恥を忍んで働いているのかというのを知った。

お兄様は蘭の護衛係として常に蘭の元に付いていた。
だから、私は蘭のことを知っているのだ。
お兄様から蘭のことはよく聴かされていた。
私と同い年で素敵な人だ…って。
お兄様は決して蘭の悪口は言わなかった。
忠実な(シモベ)として、蘭のために働いていた。

何度か、私は蘭に会ったことがあるのだ。
その何度かの出会いを総合して。
私は、蘭のことが好きじゃないってわかったのだ。

「俺の部屋は隣。おまえの部屋はここだ」
階段を上がって。
蘭は私の部屋を案内してくれた。
だだっ広い部屋には。
天蓋付きのベッドと机が置かれていた。
「おまえの世話係を紹介しておく。おい、サクラ!」
蘭は大声を出した。
予想以上の大声に身体がビクッと震えてしまう。

「呼んだ? 蘭」
ひょっこりと顔を出したのは同い年くらいの可愛らしい女の子だった。
肩まである茶色の髪の毛。
切れ長の目。
背丈は同じくらいかな?
「紹介する。おまえの世話係だ。サクラっていう。わからないことがあったら、サクラになんでも聞け」
「世話係…」
呆然とサクラさんを見ると。
サクラさんはニッコリと笑って。
「よろしくー。サクラです」
「あ、カレンです。お世話になります」
私は深々と頭を下げた。
年の近い同性と喋ることが初めてかもしれない。
緊張する。

「俺はこれから仕事だから。あとは、案内。頼んだぞ、サクラ」
「りょおかいっ☆」
サクラさんの言葉遣いに私は耳を疑った。
一応アレでも蘭がこの家の当主だというのに。
タメ口ってどういうことだろう。

「あー、面倒臭い奴がいなくなったことだし。気楽にいこうね。カレン!」
(会って早々、呼び捨てなんだ…)
蘭がいなくなった瞬間に。
サクラさんは満面の笑みで私に言った。

何か、読めないなーこの人。

「この屋敷にいる主な人達だけ、ざっくり紹介するね」
「はい…」
「カレンはね、申し訳ないけど。行くところ限られてるから。ちゃんと覚えておいて」
「え・・・」
サクラさんの一言で眩暈を覚える。