屋敷に入るとすぐにホールがあって。
男について行く。
男が部屋の前に止まってドアをノックする。
「入れ」
ドアの向こうから聞こえる声。
男がドアを開ける。
「蘭様、カレン様をお連れしました」
意を決して部屋の中へ入ると。
一年ぶりだろうか。
蘭がソファーに座っていた。
「久しぶりだな」
こっちを見て言う蘭。
私は黙って蘭に頭を下げた。
「ま、座れ」
蘭は前のソファーを指さす。
「失礼します」
私は蘭の前に座る。
テーブルの上には、何枚かの書類が置いてある。
「ここに必要な書類が書いてあるから。おまえはとりあえずサインしろ」
「…はい」
言われるがまま、自分の名前をサインする。
そういえば、結婚するのだから。
蘭の本名を知ることが出来るのだろうかと思ったけど。
ざっと見た限り、蘭の本名は記載されていなかった。
この国では、身分の高い者は本名を明かす習慣がないのだ。
何故なのかはわからないけど。基本的には人前ではあだ名で呼ぶ。
蘭は、昔から蘭というあだ名だった。
ちなみに、私はガッツリ本名で呼ばれているし、あだ名はなし。
Karen, Spencerと何枚もの書類に書き込む。
私が書類の手続きをしている間。
蘭は頬杖をつきながら、私を眺めている。
褐色の肌、真っ黒な髪の毛。マッシュショートと言えばいいのか。
特徴的なのは、碧色の瞳がとにかく大きいってことだ。
見ていて残念なのは、蘭はガリッガリに痩せているということだ。
細い腕を見ていると、「うわぁ~」と思ってしまう。
噂によると、蘭は凄くモテる男らしい。
綺麗な顔立ちをしているのは認める。
でも、私はこの男を好きになれない。
「書けました」
蘭を見ると。
蘭はじぃーとこっちを見た。
「今から、ここでのルールを伝えておくな」
「はい」
吸い込まれるような目力に圧倒されそうになる。
「まず、俺とおまえは今日から夫婦になるけど。俺は、一切。おまえに手を出すことはない」
「え…?」
「安心しな。見かけだけの夫婦ってことだから!」
思ってもいなかったことに、戸惑ったけど。
冷静に考えてみたら。
そうだよなぁ…と納得してしまう。
この男が私を相手にするわけないのだから。
そもそも、私の容姿を見て恋愛対象になる人なんてこの世に存在するわけないし。
「あと、重要なことは。おまえはこの敷地内から出ることは許されないからな」
「え!?」
思わず大きな声が出てしまう。
静かな空間に自分の声は響く。
「それは守れ」
「……」
目の前が真っ暗になっていく。
また、囚われの身か。
私に自由はないのか。
場所が変わっただけで。
外の世界を知ることはまた、許されない。
ショックで黙り込むと。
蘭は書類のほうに目を移した。
「んー。あとは、おまえのほうから質問あるか?」
「…急に言われましても」
私は考える。
「あの…」
「何だよ」
急に低い声で蘭は私を見つめる。
何でこの男はいつも、上から目線で。
しかもしかめっ面で私を見るんだろう。
「蘭様が、私を選んだのは…その、兄のせいですか」
「さあ。どうだろな」
そう言って、蘭は立ち上がった。
男について行く。
男が部屋の前に止まってドアをノックする。
「入れ」
ドアの向こうから聞こえる声。
男がドアを開ける。
「蘭様、カレン様をお連れしました」
意を決して部屋の中へ入ると。
一年ぶりだろうか。
蘭がソファーに座っていた。
「久しぶりだな」
こっちを見て言う蘭。
私は黙って蘭に頭を下げた。
「ま、座れ」
蘭は前のソファーを指さす。
「失礼します」
私は蘭の前に座る。
テーブルの上には、何枚かの書類が置いてある。
「ここに必要な書類が書いてあるから。おまえはとりあえずサインしろ」
「…はい」
言われるがまま、自分の名前をサインする。
そういえば、結婚するのだから。
蘭の本名を知ることが出来るのだろうかと思ったけど。
ざっと見た限り、蘭の本名は記載されていなかった。
この国では、身分の高い者は本名を明かす習慣がないのだ。
何故なのかはわからないけど。基本的には人前ではあだ名で呼ぶ。
蘭は、昔から蘭というあだ名だった。
ちなみに、私はガッツリ本名で呼ばれているし、あだ名はなし。
Karen, Spencerと何枚もの書類に書き込む。
私が書類の手続きをしている間。
蘭は頬杖をつきながら、私を眺めている。
褐色の肌、真っ黒な髪の毛。マッシュショートと言えばいいのか。
特徴的なのは、碧色の瞳がとにかく大きいってことだ。
見ていて残念なのは、蘭はガリッガリに痩せているということだ。
細い腕を見ていると、「うわぁ~」と思ってしまう。
噂によると、蘭は凄くモテる男らしい。
綺麗な顔立ちをしているのは認める。
でも、私はこの男を好きになれない。
「書けました」
蘭を見ると。
蘭はじぃーとこっちを見た。
「今から、ここでのルールを伝えておくな」
「はい」
吸い込まれるような目力に圧倒されそうになる。
「まず、俺とおまえは今日から夫婦になるけど。俺は、一切。おまえに手を出すことはない」
「え…?」
「安心しな。見かけだけの夫婦ってことだから!」
思ってもいなかったことに、戸惑ったけど。
冷静に考えてみたら。
そうだよなぁ…と納得してしまう。
この男が私を相手にするわけないのだから。
そもそも、私の容姿を見て恋愛対象になる人なんてこの世に存在するわけないし。
「あと、重要なことは。おまえはこの敷地内から出ることは許されないからな」
「え!?」
思わず大きな声が出てしまう。
静かな空間に自分の声は響く。
「それは守れ」
「……」
目の前が真っ暗になっていく。
また、囚われの身か。
私に自由はないのか。
場所が変わっただけで。
外の世界を知ることはまた、許されない。
ショックで黙り込むと。
蘭は書類のほうに目を移した。
「んー。あとは、おまえのほうから質問あるか?」
「…急に言われましても」
私は考える。
「あの…」
「何だよ」
急に低い声で蘭は私を見つめる。
何でこの男はいつも、上から目線で。
しかもしかめっ面で私を見るんだろう。
「蘭様が、私を選んだのは…その、兄のせいですか」
「さあ。どうだろな」
そう言って、蘭は立ち上がった。



