軽く悲鳴をあげて。
私は茫然と男の人に見入ってしまった。
ポタポタと濡れた髪の毛から水滴が床へと落ちている。
綺麗な金色の髪に素顔の見えないサングラス。
真っ黒なスーツ姿は濡れてしまって足元に水たまりが出来ている。
そうだ。
この人、蘭と一緒に話していた男の人だ。
多分、蘭の護衛の人なんだろうな。

ようやく男の人が何者かとわかると。
状況が理解できた。
男の人は、小刻みに震えているが何も言わない。
寒いのだろう。
どうして、こんなにズブ濡れなのか。
「どうぞ、寒いでしょう? 入ってください」
とりあえず、中に招き入れることにした。
男の人は黙って中に入った。
「ちょっと、待っていてください。タオル持ってきます」
そう言って。
私はダッシュで2階へと走る。

「サクラさーん」
何度もサクラさんの名を呼んだけど。
サクラさんは姿を現さなかった。
仕方ないので、自分でタオルを見つけ出し。
更に着替えの服を用意しなきゃと思ったけど。
流石に、蘭の部屋に入る勇気がなかった。
勝手に入ったら、何をされるかわからない。
(あ、そうだ)
クローゼットを漁って。
この前、蘭に借りた服を見つける。
多分、蘭と背丈は同じだから入るだろう。

部屋を出て。
階段を降りると。
男の人は扉の前でずっと立ち止まっていた。

「あの、お待たせしました」
そう言ってタオルを渡す。
「蘭はあいにく、出かけておりますので。応接間でお待ちください」
そう言って、男の人を応接間に案内することにした。