ぼんやりと考えているうちに。
いつのまにか景色は霧で隠れて見えなくなってしまった。
目の前で運転する男の後ろ姿を見ながら。
行きたくないと後悔と不安が押し寄せてくる。

心臓がバクバクし始めると。
脳裏にお兄様の姿が浮かんだ。
没落しても、こうして生活できる道があるのは。
やっぱり、お兄様のお陰なのだろう。
でもね。
お兄様。
私はあの男の嫁になるのは無理。
でも。
外の世界で生きるのだって無理。
弱い自分が嫌い。

「カレン様、到着しました」
運転手の男がドアを開けてくれた。
「ありがとう」
車から出ると。
すぐさま、男は屋敷のほうへ駆け寄って。
扉を開けてくれた。
急に、足が重たくなって。
逃げ出したくなる。
みすぼらしい格好で。
フェイスベールを身に着けて顔の見えない女が嫁ぐって。
どう考えても滑稽よね?

「カレン様、お入りください」
男に促されて。
仕方なく屋敷に入る。