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次に蘭に会ったのは、また三か月後くらいだったか。
いつものように、庭で一人。本を読んでいると。
「カレン、カレン」
と頭上から名前を呼ばれて。声のするほうを見ると。
蘭が一人、幹の上に立っているではないか。

塀を越えて入ってきた蘭は。
前回よりも顔色が良かった。
ガリガリに痩せていたのが、ちょっとはマシになったのか。
フラつく様子はなく、しっかりと立っている。
「お兄様はどうされたのですか」
「今日は、俺一人だ」
私は本を閉じて。
蘭の側へ駆け寄った。
蘭は、急に頭を下げた。
「すまない。俺のせいでアズマが怪我をした」
「ほ?」
いきなり現れて、何を言い出すのかと思えば。

身分の高い蘭が、頭を下げること自体信じられない行動だ。
「頭を上げてください。蘭様。兄は、無事なのですか?」
「ああ、無事だ。肩に怪我を負ったが無事なことは確かだ。アズマから手紙を預かってる」
そう言うと、蘭は正面を向いて。ズボンのポケットからくっちゃくちゃになった手紙を取り出した。
「アズマが来れないから、代わりに俺が手紙を届けに来た」
「…蘭様って変わったお方ですね」
思わず、思った言葉が口に出てしまう。
初対面の印象が最悪だったから。
お兄様のことも、こき使っているに違いないと思っていたのに。
わざわざ、一人でやってきて謝罪するとは、変な人だ。
「お兄様は仕事で怪我を負っただけでしょう? 何故、あなた様が謝るのですか?」
出来ることなら、蘭は悪魔みたいな奴だと思いたかったのに。
急に優しくされると調子が狂う。

蘭は、睨みつけるように私を見た。
「たとえ、護衛が仕事であっても。俺のせいで怪我をしたのは事実だ。謝って何が悪い?」

これが、蘭との二度目の出会い。