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お兄様が蘭の護衛になったという手紙を読んでから3ヵ月後。
私は庭で、日なたぼっこをしながら本を読んでいた。
すると、どこからか「カレン、カレン」と自分の名前を呼ばれているのに気づいた。
見上げてみると。
木の上にお兄様がいるではないか。
私の住む離れの周りは、ぐるりと塀で囲まれているのだが。
塀は高くなく、2mにも満たない高さだった。
塀の向こう側は木々が生い茂っていたが。
まさか、木登りをしてお兄様がやってくるとは思わなかった。
「何故、正面から入ってこられないのです?」
私は立ち上がって木の幹の上に立つお兄様に言う。
「父上たちに会うと、後が面倒だからね。今日は僕一人じゃなくて、もう一人お客さんだ」
そう言って。
お兄様は「こちらです」と言って。
下にいる誰かの手を引っ張った。
塀を越えるときも「お気を付けください」と言って。
その客人をサポートする。
…一目見てすぐに蘭だということがわかった。
ただ、驚いたのは。
蘭があまりにも、ガリガリに痩せていたからだ。
一体、どうやってここまで来たのだろう。
そのやせ細った身体で、よく木登りが出来たものだ。
蘭は動きやすい格好で。
とても貴族の身なりとは思えなかった。
褐色の肌と、細すぎる身体。
ボッサボサの黒髪と。
碧色の大きな目が、どこを見ているのかわからない。
焦点が定まっていない状態だった。
呆然と蘭を見る私に。
「カレン、こちらは蘭様。蘭様、この子は僕の妹でカレンって言います」
お兄様はいきなり自己紹介を始めた。
蘭は虚ろな目で私を見た。
「二人とも、初対面だからって緊張することないですからね」
お兄様は一人、ニコニコ笑うが。
私はその場で固まってしまい。蘭のほうも一言も発しない。
(お兄様、初対面じゃないよ)
言いたかったが、声が出ない。
お兄様は「あ」と声を漏らすと。
「カレン。蘭様の相手をよろしく。僕はちょっと自分の部屋に戻るから」
「え!? あ、お兄様」
叫ぶも虚しくお兄様の姿はすぐにいなくなってしまった。
…どうしよう。
無表情の蘭を見ていたら。
目が合った。
何で、家に連れてきちゃったのだろう。
「あの、お座りになってください」
私は、さっきまで座っていた椅子を指さす。
椅子は2つ用意されているので向かい合って座る。
…座ったのは良いが。
(何を喋ればいいんだろう)
瞬きを何回かして。
頭をフル回転させる。
「あ、あの。こんなお見苦しい姿でごめんなさい」
「…え?」
小さな声で蘭が言った。
「あ、あの。あの…私、生まれつき痣がありまして。それを隠すために、あえてこんな格好をしているんです」
そう言って。フェイスベールに触れる。
とりあえず、痣のことを最初のうちに言っておけば、後は大丈夫だろう。
お兄様が「初対面」と言っているということは、蘭は私のことを覚えていないということだ。
…だが、
「知ってる」
今度は少し大きめの声で蘭が言った。
「アズマから、おまえの痣のことは聴かされている」
「……」
何故か、馬鹿にしているように聞こえた。
蘭は視線を背けた。
その日、蘭と交わした会話はたったそれだけだった。
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お兄様が蘭の護衛になったという手紙を読んでから3ヵ月後。
私は庭で、日なたぼっこをしながら本を読んでいた。
すると、どこからか「カレン、カレン」と自分の名前を呼ばれているのに気づいた。
見上げてみると。
木の上にお兄様がいるではないか。
私の住む離れの周りは、ぐるりと塀で囲まれているのだが。
塀は高くなく、2mにも満たない高さだった。
塀の向こう側は木々が生い茂っていたが。
まさか、木登りをしてお兄様がやってくるとは思わなかった。
「何故、正面から入ってこられないのです?」
私は立ち上がって木の幹の上に立つお兄様に言う。
「父上たちに会うと、後が面倒だからね。今日は僕一人じゃなくて、もう一人お客さんだ」
そう言って。
お兄様は「こちらです」と言って。
下にいる誰かの手を引っ張った。
塀を越えるときも「お気を付けください」と言って。
その客人をサポートする。
…一目見てすぐに蘭だということがわかった。
ただ、驚いたのは。
蘭があまりにも、ガリガリに痩せていたからだ。
一体、どうやってここまで来たのだろう。
そのやせ細った身体で、よく木登りが出来たものだ。
蘭は動きやすい格好で。
とても貴族の身なりとは思えなかった。
褐色の肌と、細すぎる身体。
ボッサボサの黒髪と。
碧色の大きな目が、どこを見ているのかわからない。
焦点が定まっていない状態だった。
呆然と蘭を見る私に。
「カレン、こちらは蘭様。蘭様、この子は僕の妹でカレンって言います」
お兄様はいきなり自己紹介を始めた。
蘭は虚ろな目で私を見た。
「二人とも、初対面だからって緊張することないですからね」
お兄様は一人、ニコニコ笑うが。
私はその場で固まってしまい。蘭のほうも一言も発しない。
(お兄様、初対面じゃないよ)
言いたかったが、声が出ない。
お兄様は「あ」と声を漏らすと。
「カレン。蘭様の相手をよろしく。僕はちょっと自分の部屋に戻るから」
「え!? あ、お兄様」
叫ぶも虚しくお兄様の姿はすぐにいなくなってしまった。
…どうしよう。
無表情の蘭を見ていたら。
目が合った。
何で、家に連れてきちゃったのだろう。
「あの、お座りになってください」
私は、さっきまで座っていた椅子を指さす。
椅子は2つ用意されているので向かい合って座る。
…座ったのは良いが。
(何を喋ればいいんだろう)
瞬きを何回かして。
頭をフル回転させる。
「あ、あの。こんなお見苦しい姿でごめんなさい」
「…え?」
小さな声で蘭が言った。
「あ、あの。あの…私、生まれつき痣がありまして。それを隠すために、あえてこんな格好をしているんです」
そう言って。フェイスベールに触れる。
とりあえず、痣のことを最初のうちに言っておけば、後は大丈夫だろう。
お兄様が「初対面」と言っているということは、蘭は私のことを覚えていないということだ。
…だが、
「知ってる」
今度は少し大きめの声で蘭が言った。
「アズマから、おまえの痣のことは聴かされている」
「……」
何故か、馬鹿にしているように聞こえた。
蘭は視線を背けた。
その日、蘭と交わした会話はたったそれだけだった。



