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蘭に「気持ち悪い」と罵られ、突き飛ばされてから。
数年が経った頃。
お兄様が家を出て働くと言い出した。
「カレンにはさみしい思いをさせてしまうけど、絶対にまた帰ってくるから」
そう言って。
お兄様は家を出て行った。
元々、私は屋敷ではなく、離れで暮らしていたので。
お兄様と毎日顔を見合わせるわけではなかった。
それでも、お兄様は暇さえあれば私に会いに来てくれた。
日常生活の心の支えといえば。
お兄様しかいなかった。
自分の味方はいつだってお兄様だけだった。
離れてみると、それが余計に身に染みてわかった。
侍女たちの話を盗み聞きしているうちに。
お兄様は、両親のせいで働かなければならないのだということを知った。
いつのまにか、両親に対する憎悪が増えていった。
当時10歳の私には、怒りをどう表現していいのかわからず。
誰もいなくなったら、部屋でとにかく泣き叫んだ。
本を壁に投げつけた。
感情が不安定だったのだと思う。
でも。
人前で、それを見せることは出来なかった。
猫かぶりも良いところだ。
そんな状況の中で。
お兄様から手紙が届いたときは本当に嬉しかった。
何度も何度も読み返した。
そして、驚いたのはお兄様が有言実行したことだ。
一ヵ月に一度、私に会いにきてくれた。
ほんの5分程度だったけど。
「元気そうでよかった」
そう言って私の頭をなでてくれる。
くすぐったいような温かい手だった。
蘭のことを知ったのは、手紙だった。
お兄様が働きに出て3カ月。
手紙に初めて「蘭様」という言葉が登場した。
私は聞き覚えのある名前にショックを受けた。
…あの男の子と同じ名前だ。
偶然? いや、そんなわけはない。
手紙の中で、お兄様は当主のご子息である蘭という男の子の護衛係に任命されたと書いてあった。
蘭は私と同い年で。
子供のいなかったスペンサー夫妻が養子として迎えたそうだ。
親戚とはいえ、伯爵としての爵位を与えられたスペンサー家では、さぞかし豪華な暮らしをしているのだろうな…と勝手に想像した。
あの男の子にお兄様を取られてしまった。
当時の私は、しょうもないくらい偏った考えにたどり着いて。
嫉妬していたのだろうと思う。
その嫉妬はもしかしたら、今でも続いているのかもしれない。
蘭を嫌う原因の一つは、兄を取られてしまったという嫉妬からだ。
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蘭に「気持ち悪い」と罵られ、突き飛ばされてから。
数年が経った頃。
お兄様が家を出て働くと言い出した。
「カレンにはさみしい思いをさせてしまうけど、絶対にまた帰ってくるから」
そう言って。
お兄様は家を出て行った。
元々、私は屋敷ではなく、離れで暮らしていたので。
お兄様と毎日顔を見合わせるわけではなかった。
それでも、お兄様は暇さえあれば私に会いに来てくれた。
日常生活の心の支えといえば。
お兄様しかいなかった。
自分の味方はいつだってお兄様だけだった。
離れてみると、それが余計に身に染みてわかった。
侍女たちの話を盗み聞きしているうちに。
お兄様は、両親のせいで働かなければならないのだということを知った。
いつのまにか、両親に対する憎悪が増えていった。
当時10歳の私には、怒りをどう表現していいのかわからず。
誰もいなくなったら、部屋でとにかく泣き叫んだ。
本を壁に投げつけた。
感情が不安定だったのだと思う。
でも。
人前で、それを見せることは出来なかった。
猫かぶりも良いところだ。
そんな状況の中で。
お兄様から手紙が届いたときは本当に嬉しかった。
何度も何度も読み返した。
そして、驚いたのはお兄様が有言実行したことだ。
一ヵ月に一度、私に会いにきてくれた。
ほんの5分程度だったけど。
「元気そうでよかった」
そう言って私の頭をなでてくれる。
くすぐったいような温かい手だった。
蘭のことを知ったのは、手紙だった。
お兄様が働きに出て3カ月。
手紙に初めて「蘭様」という言葉が登場した。
私は聞き覚えのある名前にショックを受けた。
…あの男の子と同じ名前だ。
偶然? いや、そんなわけはない。
手紙の中で、お兄様は当主のご子息である蘭という男の子の護衛係に任命されたと書いてあった。
蘭は私と同い年で。
子供のいなかったスペンサー夫妻が養子として迎えたそうだ。
親戚とはいえ、伯爵としての爵位を与えられたスペンサー家では、さぞかし豪華な暮らしをしているのだろうな…と勝手に想像した。
あの男の子にお兄様を取られてしまった。
当時の私は、しょうもないくらい偏った考えにたどり着いて。
嫉妬していたのだろうと思う。
その嫉妬はもしかしたら、今でも続いているのかもしれない。
蘭を嫌う原因の一つは、兄を取られてしまったという嫉妬からだ。



