Your Princess

渚くんが「選べれた人」という言葉をチョイスした。
ならば、蘭もきっと選ばれた人なのかな…と勝手に想像してしまう。
蘭には謎が多すぎる。
一番謎だ。
「カレンさんのほうが詳しいんじゃないっすか? 夫婦なんだから毎日一緒にいるんでしょ?」
質問の意味がよくわかっていないのか。
じーとシュロさんが私を見る。
「あー、蘭が忙しいからカレン、蘭と喋る暇ないんでしょ!」
渚くんは大きな声で言った。
「蘭はねー、すっごく努力家だよ」
一瞬、話をはぐらかされたと思ったのだが。
渚くんはすぐに答えてくれた。

「おじいちゃんは、蘭のことどう思ってんの? 面倒臭いとか思ってんの?」
「はあ!? おまえ、そんなこと言っちゃ駄目だろうが」
シュロさんが大きな目で渚くんを睨みつける。
「なんつーか。蘭は、裏表のない奴というか。嘘がつけない男で。そこが短所にもなるというか…。身分は俺らよりよっぽど高い人だけど。だからといって調子こいたりすることなくて…権力振りかざしたりしないし」
堰を切ったように、シュロさんが語り始めた。
そんなシュロさんを見て、渚くんはニンマリと笑っている。
「というか、俺ばかり話さないで渚、オマエが話せ。俺の考えは昔の記憶から辿るしかないんだから」
「まー、そうだもんね。おじいちゃんの意見はそうなっちゃうよねー」
うんうんと渚くんは頷く。
そして、私を見て、にっこりと笑った。
「蘭は俺と同い年と思えないくらい当主として頑張ってるよ。普段は学校へ行って勉強して。寝る間をおしんで仕事して。だから、あんまり帰ってこれないんだ」
(学校行ってるの?)
渚くんの言葉にチクリと胸が痛んだ。
「カレン。さみしい気持ちはわかるよ。でも蘭は、めたんこ努力してるんだ。それは奥さんとしてわかってあげてほしい」
(別に、さみしくはないけど!)
思わず渚くんから目をそらしてしまったが。
2人の思いはよくわかった。
あの男は、心を許した人には優しいってことだ。

「俺は自分の意見よりも、カレンさんと蘭の馴れ初めが聴きたいなー」
いつの間にテーブルの上を片付けたのだろう。
シュロさんがテーブルをフキンで拭いている。
「えー、おじいちゃん。俺、知ってるから。ほかの話がいいよぉ」
「俺は知らないっての!」
さっきから、渚くんとシュロさんのやりとりを見ていると。
本当に2人は仲良しなんだなって思った。
「じゃあ、教えてあげるよ。カレンはね、アズマさんの妹で。カレンに一目惚れした蘭が権力を使って、カレンを連れ去って現在に至るってコト!」
「え、アズマさんの妹!?」
シュロさんは私を見た。
渚くんの言った言葉に色々突っ込みたかったが。
シュロさんが「えぇー」と大声を出す。
「どうりで…、やっぱ似てますわな」
ジロジロと見られるので恥ずかしい。
「似てます? 兄と似てるって言われたことないんですけど」
「カレンはねー、普段顔隠してるからわかんないんだよ! 美人さんなんだから、今のほうが絶対にいい」
もう、渚くんの言うことは滅茶苦茶だ。
「へえー。アズマさんの妹…」
「シュロさん、兄を知ってるんですか?」
「知ってますよ。アズマさんは俺達の中ではヒーローでした」
懐かしむようにシュロさんは考えながら答えた。

お兄様がよく話していたのは蘭のことだけで。
渚くんや、シュロさんのことは一切話していなかった。
やはり、口止めされていたのか…?
「もう、俺達話したんだからさ。今度はカレンが蘭との思い出話してよ。恋愛話!」
口元をナプキンで拭った渚くんは。
興味深そうにこっちを見てくる。
「俺も聞きたいっす!」
何故か手を挙げて言うシュロさん…。
「そう言われても…、蘭との思い出と言えば」
ふと、8歳の頃の最悪な出会いがよぎったが。
この2人には絶対に言えるわけがない。