真っ黒で質素なドレスしか持っていなかった。
と、いうより。
私はそもそも服を2着しか持っていない。

お嫁に行くというのに。
こんな格好で行って。蘭に笑われるだろうな…というのが目に見えてわかる。
車に乗り込んで。
まっすぐな道を進む。
外の世界を見るのは何度目なんだろう。
森が見え、畑が見え。道がまっすぐと進んでいく。
ぼんやりと、窓の外を眺めながら。
これが運命だというのならば、受け入れなきゃ駄目なのかと神様に問いかけたくなる。

蘭が当主であるスペンサー家と我がスペンサー家は遠い親戚同士だそうだ。
私の曽祖父だったか高祖父が蘭の曽祖父だか高祖父と兄弟だったらしい。
本家であるスペンサー家はめきめきと繁栄し。
片や分家であるスペンサー家も頑張ってはいたものの、仕事が出来ない父の代でついに没落した。

まあ…親戚と言っても。
蘭とは血の繋がりはない。
蘭は養子だそうだ。
どこかの伯爵の秘密裏に生まれてしまった子供だとか。
そんな蘭のお嫁さんになるとは夢にも思ってなかった。
あの男の嫁になるなんて。
地獄にしかすぎない。