Your Princess

気づいたら、カーテンから朝陽が零れていた。
目の周りがパリパリに乾いてしまっている。
夜通し泣くと、目は腫れて肌がガッサガサに荒れてしまっている。

昨日のことは、夢だったんだ。

そう、思いたかった。
うん。
そうだ、私はこの屋敷から出てもいないし。
悪い夢を見ただけなんだ。


深呼吸をする。
大丈夫、まだ。私は大丈夫。

そう考えていると。
乱暴にドンッとドアが開いた。
「カレン。何、寝てんのよ!」

物凄い形相でサクラさんが入ってきた。
侍女である彼女は、どうして私に怒るのだろう?
サクラさんが近づいてきたかと思えば。
私の両肩をガッチリと持ち上げた。
「あんたのせいで、クリスが牢屋行きになったじゃない!」
ぶんぶんとサクラさんは強い力で、私の身体を揺さぶった。
何を言われているのか。
寝起きの私には理解が出来ない。
泣きすぎて、ぼんやりとした視界が少しずつ正常になっていく。
「牢屋って…?」
「あー、もう。いいからついてきなさいっ!」
そう言うと。
サクラさんは私の手を引っ張った。
物凄い力の強さだった。

サクラさんに引っ張られて。
部屋を出て階段を降りたかと思えば。
玄関前のホールに出る。
サクラさんがホール中央の壁に向かって蹴りを入れると。
まさかの壁だと思っていたところが扉になっている。
「あんたのせいなんだからね」
扉を開けて。
サクラさんは速足で地下へと続く階段を下りていく。
信じられない。
この屋敷に地下があるなんて。

ひんやりとした空間だった。
私とサクラさんの足音だけが妙に響いた。
階段を降りきると。
壁にかかっていたランタンを取って。
サクラさんはずんずんとまっすぐ進む。
正面には、鉄格子がありその向こうに誰かいる。
「クリス! クリス」
サクラさんが叫ぶ。
…思考が停止した。

鉄格子の向こう側に佇んでいるのは、クリスさんだった。
「やあ、カレンちゃん」
ふんわりと笑うクリスさんだったけど。
元気がないのは一目瞭然だった。
「何で…こんなところに」
牢屋に捕らえられているクリスさんを見ても。
信じられない気持ちだった。
急に自分の心臓がバクバクと鳴るのを感じた。
「あんたが、クリスをそそのかして外出したからでしょうが!」
興奮した口調でサクラさんが言う。
「誰が…そんな」
誰が…と言いながらも。
こんなことするのは一人しかいない。

「クリスさんごめんなさい。私のせいで」
鉄格子の向こう側に立つクリスさんを見て。
自分の罪の重さに気づく。
「大丈夫さ。それよりも、渚のこと頼めるかな? あいつ、一人だと寝れないんだ」
「ごめんなさい…」
小さな声で謝ると同時に。
私は反射的にそこから走り出していた。

「蘭、ラン。らーん」