さっそく、普段つけている黒色のフェイスベールを取って。
渚くんがくれたフェイスベールをつけた。
クリスさんは「用事があるから」と言って。ビビを連れてどこかへ行ってしまった。
残された私と渚くんは庭にあるベンチに座った。
ふわりと時折やってくる風が心地良い。
土の匂い、花の香り。
なんだか落ち着く。

「カレン。ずばり聴いていいかな?」
「ん?」
渚くんは真っ黒な瞳で私を見る。
「カレンが顔を隠すのって、誰かに言われているから?」
ど直球での質問だった。
あまりにもまっすぐで偽りのない言葉に、私は思わず渚くんを凝視した。
渚くんは真剣そのものだ。
渚くんを見ていて。
何故か、話してもいいのかなって思ってしまう。
「あのね、渚くん」
「うん」
「私ね、小さい頃。ある人に『気持ち悪い』って言われたんだ」
まさか、蘭に言われたとは言えなかった。
今でもあの光景がフラッシュバックする。
「私ね。その人に言われるまで、自分がこんなバケモノで気持ち悪い人間だなんて思ったことなかったの…」
気づけば、一人だった。
両親から切り離され。
お兄様から切り離され。
一部の人間としか関わることを許されなかった。
決められた敷地内から出ることを許されなかった。

でも、それが「オカシイ」と思ったことなんて一度もなかった。
さみしいとは思ったけど。
隔離されているだなんて、思ってなかった。
自分の顔にある痣のせいだなんて、蘭に言われるまで気づかなかった。

蘭に言われてから、世界が変わった。
他人が自分をどのように見ているか、わかってしまった。
自分の顔をしっかりと見る人なんていなかった。
お兄様ですら、私を直視しなかったと思う。

「フェイスベールで痣は隠してるんだけどね。隠したら隠したで目立つよね」
アハハと自嘲すると。
何故か、渚くんの目は涙が溜まっていた。
「俺が、その場にいたら。ソイツのこと蹴り飛ばすよ!」
急に渚くんが怒り出したので。
私は「え?」と思わず声を出してしまった。