ここは、ティルレット王国。
中世ヨーロッパ風の世界とでもいえばいいのだろうか。
雄大な自然の中にはお城があって、貴族がいて。
城下町があって。ファンタジーな世界。
私はそんな世界に生きている…はず。
何となく、想像でしかわからないのは。
私は生まれてからこのかた。ほとんど屋敷から外に出ることを許されなかったからだ。
あ、別に罪人ってわけじゃないからね。
ただ、人と違うのは。
左の目の下から顎あたりに。
緑色の大きな(あざ)があるってことだけだ。

私の家は由緒正しき貴族だった。
だった…と、過去形なのは。
両親の代で完全に没落したからだ。
何となく、予感はしていた。
昔は沢山のお手伝いさんがいたのに。
いつのまにか一人、また一人と姿を消して。
ついには家庭教師だったライト先生までもが現れなくなった。
食事だって、いつのまにか質素倹約状態になっていって。
今日の両親の言葉で完全に悟った。
我がスペンサー家は没落したのだと…。

2人とも根っからの貴族体質で、とにかくプライドが高い。
そのくせ頭が悪いから簡単に没落するんだろうなぁ…。
若くして当主になったお父様。
世間知らず(私も世間知らずだけど)のまま嫁いだお母様。
2人は毎日、豪遊していたって話だ。
そんな仕事もせず、毎日遊んでいれば。そりゃ没落するだろう…。
陰で部下やお手伝いさんたちに馬鹿にされている両親を尊敬することは出来ない。
でも、嫌いになることだって出来ない。
それは、家庭教師であるライト先生が「君はちゃんと寝床があって食べることに困ってないだろう?」と言ってくれたから。

生まれてきた私を疎んじて捨てる…ということは流石にしなかった。
そこに私への多少の愛はあったのかもしれない。
本殿の裏に小さな離れを作り。
そこで私は静かに生きていくことになった。
世間からは切り離されて。
外に出ることは許されず。
人前に出るときは必ずフェイスベールをまとい。
15年間を生きてきた。
それだけなのに。
…終わりは、あっけない。