「綾乃」 千景くんはわたしを見るなり表情を崩して微笑んだ。 「はぅ……っ!」 その甘い笑顔に悩殺された女子の皆さんが、クラリとよろけて壁に手をつく。 「一緒に帰ろ」 「へ?」 一緒に、帰る? 廊下にはギャラリーが押し寄せて、千景くんをひと目拝もうとする人であふれていく。 「賑やかだね。静かなところに行こっか」 周りを見て困ったように肩をすくめた千景くんが、戸惑うわたしの手を取って歩き出した。