上司は優しい幼なじみ

カバンを逆さにし、中身を全部出した。
A4のクリアファイルの中身も出すと、その中にスマホが紛れていた。
山本さんの元に向かおうと一歩踏み出したとき、たっくんの声が遠くから聞こえた。

「美子!?」

その声に、進みかけた足がぴたりと止まった。

「み…みこ?」

もしかしたらたっくんじゃないかもしれない。
そう思い、恐る恐るフロアの外に顔を出した。

そんな私の小さな希望はすぐに砕けた。
山本さんと磯部さんのそばで救急車を呼ぶたっくんの姿があった。

「あ…」

思わず声が出てしまった。
一瞬たっくんと目が合ったが、彼はそのまま電話を続ける。

しばらくして到着した救急隊員に担架に乗せられ運ばれていく。
たっくんも最初は焦っていた様子だったが、今は冷静さを取り戻しているようだ。

「磯部さんは日高部長に呼ばれていたよね、行っていいよ」

「で、でも山本さんが…!」

「俺が乗っていくから、大丈夫」

目を真っ赤に腫らしながら声を震わす磯部さんに対し、彼はそう優しく諭した。
その言葉に少し落ち着いたのか、磯部さんはようやく立ち上がりその場を離れる。