「凛也さんはなぜ結婚を白紙に戻そうとしたんですか⋯?」



ファイルを鞄に仕舞う凛也さんに気になったことを聞いてみる。

彼はこの結婚を受け止めていたはず⋯なのにどうして急にここまでの提案をしてくれるのだろう。



「⋯特に理由はない」

「理由がない?」

「強いていえば、どうにかして家の決めた事に対して反抗るお前を見て感化されたのかもしれないな」

「わたし⋯?」

「跡を継がなければならない事には変わりないが⋯何もこの後の人生で一番同じ時間を共有する人間まで外野に決められたくはないからな」

「独身貫くも世帯を持つも、自分で決める」

「⋯はい」

「それに、自分にもさくらにも同情をした」

「⋯、」

「お前には恋愛的な好意は全くないがこうなったのも何かの縁かもしれない。知ってしまった以上、無力な女の力になってやろうと思っただけだ」



怖いと思っていた凛也さんは本当はそんな事ないのかもしれない。

わたしがミナトを好きだと知り、凛也さんからわたしに対する恋愛感情がなかったとしても怒っていいはずなのに、力になってくれるなんて。



「あまり勘違いはするなよ。ほとんど自分の為でもあるからな。基本的に俺は結婚願望など微塵もなかったし」

「はい。ありがとうございます」



こんな言葉が正しいのかどうかはわからないけれど、わたしの婚約者が凛也さんでよかったと思った。

彼でなければこんな提案してくれなかったかもしれないし、彼なら必ず八年間で実績と利益と信頼関係を作り上げてくれると信じられるから。