「今、お前たちが二人でどこか遠くへ行くと言うのなら止めはしない。それが父親として出来る最低限の妥協だから」
「⋯っ」
「ただ、二人でどこかへ行くという事はさっきも言った通り多くの犠牲が必要になる」
「⋯」
「教師になるという夢を彼は諦めなくてはならないし、彼もさくらと同様家族を捨てなければならない」
「っ」
「自分だけの犠牲で済むと思っているお前は甘い」
「そんな、の⋯、」
「彼にその犠牲を強いる事が出来るか?」
「⋯っ」
「目を逸らすな」
思わず俯いたわたしにお父さんの厳しい声が届く。
⋯考えていなかったわけじゃない。
わたし達二人だけでどこか遠くへ行くこと⋯つまり、駆け落ちするという選択肢を考えた事がないわけじゃない。
だけどそれは現実味に欠けていて、最後の選択肢として頭の端にあるだけのものだった。
凛也さんとの結婚を白紙にすればいいのだと、そう考えていたから。
だけど遂にその朧だった選択肢が現実味を帯びるところまで来てしまったんだ。
きっと、何を言っても、どうやってもお父さんを説得するのは不可能で。
この結婚を覆す事は限りなく不可能で。
─────だけどお父さんの言う通りわたしは甘すぎた。
全てにおいて独り善がりで。
犠牲を払うのがわたしだけなんてあるはずがないのに。
わたしと一緒になるという事は当然、ミナトにだって犠牲が必要になる。
夢、家族、友達。
今までのミナトの生活、これからの未来。
その全てをわたしが奪ってしまっていいのだろうか?



